表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/42

天才の魔獣・秀才の魔獣 7

     7.

 レスティアがアクベスバ――系の魔獣に乗って走って来た。


 ワニ・カラス・スズメバチの頭、尾は蛇になっているトラ。


 技術的にはリプクレスに転用されているわね。


「いました!」


 彼女が振り返ると、後ろからリュースが降りてきた。


「アリシア、リンゼータは無事か!?」


「無事よ。あなたは!?」


「ああ、傷は縫えた。このくらいで死んでたまるかよ!」


「リュース様っ!」


 リンゼータは泣きながらリュースに抱き付いた。


「よしよし、無事だな。だったら何の問題もない!」


「お父さまは?」


「パスだって。残って、帰るべき家を守っておくって」


 お父さまらしい。


 でも体も丈夫じゃないから、逃亡生活は無理かな。


「リュース、リンゼータを助けることは出来たわ。でも行く所がない。フィスはガル・ファージアへ渡りなんてつけていなかった……」


 リュースはあたしの言う事が理解出来ないかのように、目をパチクリさせた。


「……それがどうした?」


 えっ!?


「おれは別にガル・ファージア王国へ絶対行こうなんて、欠片も思っていなかったぜ? 城から出すのに苦労するとは思っていたが」


 じゃあ……


「どこへ行く気? 魔空界はあたしの故郷がとっくにバレているから、隠れても重点的に捜査されるわよ?」


「魔空界? そんな所行かないよ?」


「じゃあ、どの世界に逃げる気よ!?」


「探す」


 あっけない、素っ気ない、信じられない答え。


「リンゼータが、王女ではなく少女として扱ってもらえる世界。異世界は沢山ある。そんな世界だって、きっとあるさ」


「そんな無謀な……」


「んー、おれは無謀だとは思わない。脱走も、戦闘も、準備さえしておけば確固たる鉄壁の計画だ」


 騙されて腹を刺されたクセに……


 あたしだったら根拠はない。でもこの天才にならあるのかも。


「フッ……本当に天災皇子ね。でもリュースが言うのだから、ありそうに思えてきたわ」


「さあ、早く行こうぜ」


「そう思ったんだけどね」


 思わず溜息をついた。


「お父さまにそんな無茶はさせれられないし、レスティアのと合わせても魔獣が2体では運べる人数は3人が限界。荷物もあるし余裕がいるわ。異世界を探すなら尚更よ。それに、アガベルケス殺害の犯人はフィス。これを知らせないと、左利きの誰かさんの冤罪が晴らせないわ。だから、あたしはここでお別れ。残念だけどもね」


 リンゼータは美しい瞳を衝撃で大きく見開いた。


「アリシア様……」


「何言っているの、別に今生の別れじゃないわ。落ち着いたら呼んでよね。どんな世界にでも必ず行くから。それに異世界が見つからなかったら、コッソリ帰って来たらいいじゃない」


「おれはアリシアに来て欲しかったんだけど」


「だめ。そろそろあたしから卒業なさい」


「そうか。リンゼータに世界一のお婿さんを見つけてやろうと思ったんだが、おれは男を見る目がないから」


「男じゃなくて人間を見る目がね。でも失敗しながら成長するものよ。魔獣だけではなくて人間もね」


「リュース様より素晴らしい男性はいませんわ」


「……探したら、案外いるかもね」


 リュースは実験が連続で失敗したような、寂しげな表情になった。


「リュース、知らないに人について行ったらだめ。知らない猫について行ってもだめ。困ったら何でもリンゼータに相談して。それで大体のことは上手く行くわ」


 あたしはリンゼータの額にお別れのキスをした。


「泣かないでリンゼータ。これから幸せになる為に旅に出るのよ」


 いつかまた会える。


 そのときは二人ではなく三人で会いたいわ。


 リンゼータのお婿さんか、あるいは二人の子供か。


 リュースはあれで人としてはいい奴だから、それもありかもね。


 幸せになる鳥や理想の恋人は、必死で探さなくても案外近くにあるものなのよ。


 あたしは第3形体を解除した。


「リュース、これは一体……」


「リプクレスは戦闘データを蓄積し、更に強力に、更に強靭に進化・成長していく! そして誰であってもその能力を完全に引き出すことが出来る! 今のおれの創りうる最高傑作だ!」


「恐ろしい魔獣ね……」


 あたしは嘆息した。


 確かに強力な魔獣を創り出すことはできる。


 誰にでも簡単にできる訳ではないのだけれど、問題はそんな点じゃなくて、魔獣の持つその能力まで引き出すには、騎士にも相当の技量が必要になってくる。


 名剣を手にすれば、誰でも一流の剣士になれる訳じゃない。


 しかしこのリプクレスは違う。


 戦闘未経験のこのあたしでさえ、騎士に負けない戦いが出来た。


 アクベスバの第2形体も衝撃だったけれど、この第3形体はそれ以上だわ。


 本当に、魔獣創造に関しては――いえ、魔獣創造に関してだけ(・・)は天才的ね。


 でも――


「リプクレスには、何らかの制限(リミッター)が必要よ」


制限(リミッター)? なぜだ? 魔導師(おれたち)が魔獣を創るのは、より強力な武器(どうぐ)を創ることが目的だ。どこかに問題があるのは、強力とは言えないぜ。欠陥品だ!」


「そうね」


 弱点や欠点、問題点があるのは、『強化された』とは言えない。


 いざ戦闘、となれば必ず敵はそこをつく。


 そうなると折角の長所が生かしきれない。


 長所を伸ばすことは勿論大事だけれど、それより大切なのは短所を作らないこと。


 魔獣にもそれが求められる。


 だからこそ、複合三頭が懐疑的だった訳。


 どこかに無理があって、とんでもない弱点がないか――


「正論ね。でもこんな魔獣が量産されたら、混沌界のパワーバランスがひっくり返るわ。皇帝は実力でグリーンフィールド王国を征服してしまうわよ?」


 ハズバーンの能力を10とすると、アクベルトは24から26であると解析された。


 あたしの見た所リプクレスは……45以上よ。


 つまり、配備された魔獣をリプクレスと機種交換するだけで、戦力が何倍にも膨れ上がる。


「バスターも凄いわね。防御球殻ごと魔獣を吹き飛ばすなんて」


「あれを開発したのはおれじゃない。図書室に残っていたのを仕上げただけだ。おれが創ったのは、同時詠唱の部分だけ」


 根本的に、300リーメッツもの魔力をどうやって捻り出すのよ。


 理論を確立したのが誰でも、実際に完成させる為の問題点は全てリュースが解決したのでしょうが。


 本当、手柄に興味がないのね……


「あれだけの戦闘力があれば、帝国は正面切ってグリーンフィールド王国と戦争ができるわ。二強国が戦争になれば、戦火は周辺諸国にも飛び火する。その混乱でどんな世界がくるのかはわからない。でも、平和な世界じゃなくなるわね」


「むう……」


 リュースは首を傾げた。


 何かを考えているようだけど、また間違った方向に行っているかもねぇ……


「急いで創ったからそこまで頭が回らなかったけどさ。なんせこいつを創るのは苦労したんだぜ。アリシアが『何とかしろ』うるさいから急いだけど」


 王家の夜を焼こうとした時、『難しい』って言ったのは、短期間でこの魔獣を仕上げること!? 全く言っていることが解らないわね!


「行こうぜ」


 リュースはリプクレスに跨った。


 リンゼータは躊躇してあたしとリュースを交互に見る。


「……行きなさい、リンゼータ」


 少女は頷いてリプクレスの後ろに乗る。


「行きます。わたしはリュース様と!」


 そう。それでいいの。それできっと、幸せになれるわ!


「行きましょう。追っ手も来ます」


 レスティアも魔法陣を広げ、魔獣を載せた。


 二頭の魔獣は魔法陣に沈んで行く。


 異空間を通って異世界行くために。新しい世界を探すために!


「アリシア様、さようなら」


「アリシア殿、どうかお元気で」


「アリシア、ちょっと行ってくるぜ」


 三者三様の別れの言葉。フフッ、彼女ららしいわ。


「さようなら! 元気で、必ず逃げ切るのよ!」


 姿が完全に魔法陣に飲み込まれた。


 リンゼータ、これで幸せになれるかしら。


 姿が見えなくなっても、祈るような気持ちで魔法陣の消えた大地を見続けた。


 少し胸が痛んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ