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天才の魔獣・秀才の魔獣 2

     2.

 中の騒ぎに気付いたのか、遅ればせながらレーネ率いる赤薔薇騎士隊御一行が、外からカギを開けて入って来た。


 当然全員残らず中の現状に驚愕する。 


 窓は破られ鉄格子は投げ出され、魔獣が居座ってメイドは隅に追いやられている――これは実は自主的だったが。


「フェルディナント皇子、乱心されましたか!? こんな騒ぎを起こして、何を考えておいでです!」


 レーネが叫ぶ。


 残念!


 乱心は毎日、考えていることは凡人には解らない! 天災皇子フェルディナントよ!


「エル王女をお守りするのなら、多少の無礼も皇帝陛下にお許しされている。お覚悟を!」


 まずい!


 ディグベスバがいるのよ!


 いくらリュースでも八体の魔獣騎士を――


 窓からもう一人、いや一体の魔獣が飛び込んできた。


「皇子、助太刀しますよ!」


 えっ!?


 リュースに助っ人!?


 これもまた大きい。


 灰色熊がベースで、熊の頭の左右にワニ・トラ頭が生え、尾の代わりに蛇が生えている。


 系列的にはリュースの魔獣と同じなのかしら?


 そしてその背に乗っているのは――


 フィス!?


 口と鼻を布で巻いて顔の下半分を隠してはいても、その金髪と声で解った。


 どうして第2課長が!?


 鎧こそ着けていないものの、腰に差してあるのは魔道師の短剣と、短いものの戦杖(バトル・ウォンド)


 助けに来てくれたの?


 戦う気十分で?


「そこの男! 帝国への反旗を翻すか!」


 レーネの言葉に、フィスは覆面の下で不敵に笑った。


「麗しきレディを二人も助ける。男として本懐ではないか!」


「恰好つけおって、命の保証はせん!」


 リュース相手にしたら、命の保証はできないわよ。


「おのれ、アイサ、カテジナ、魔獣召喚! 後の者は援護しろ!」


 言いながら、レーネもディグベスバを召喚。


「フェルディナント皇子、ここは僕に任せて」


 前に立つ残り騎士を弾き飛ばし、魔法陣から魔獣が半分出た所で、召喚中の二人を殴り倒す。


 やった!


 いくら二本差しでも、こんな至近距離で集中力を必要とする魔法を使ったら、大きな隙になる。


 それを見越していた! 流石魔導師!


 二人ともフィスに殴られて、一発で伸びてしまった。


 いくら魔獣が優秀でも、使い手が無能なら使いこなせない!


 ディグベスバは精神制御を受けているから、命令もなく勝手に暴れたりはしない。


 その身に危険が及べば自己防衛行動を行うが、こういう時は、頭部に埋め込まれた精神制御クリスタルに複数人登録された使用者の命令を優先して聞く。


 このバラバラ隊の誰でも使えるように、全員を登録するはずだわ。


 レーネは召喚途上のうちにディグベスバの背に飛び乗った。


 抜剣せず、召喚に使った戦杖を上げる。


「炎よ集え!」


 この呪文はファイアボール? こんな近くで? 


「ムッ!」


 フィスはアクベスバ?に火を吐かせた。


「馬鹿め!」


 レーネは戦杖を突き出した。その先端に当たって、ファイアブレスが逸れる。


 ファイアボールなどの中級魔法は、創り出した魔法の弾を十分な威力と大きさになるまで留めるため、その力場は一種の防御球殻になる。


 敵の攻撃を防ぐか、中の火炎を出さないか、基礎理論は同じ。


 その効果を利用してファイアブレスを防いだ。


 やるわ、この女騎士。


 この至近距離で――いや、至近距離だからこそできた。


 後少し距離が遠かったら、射線がわからない。


 魔導師はこの防御を予想できない。


 経験の違いね。


 この勝負、魔導師対騎士の特性の勝負になる!


 その間に転がった五人の内の二人は跳ね起き、召喚されたディグベスバに飛び乗った。


 まずい!


 第2形体になるのに隙は発生しない!


 二人は素早く第2形体になる


「早くディグベスバを召喚しろ! 数はこちらの方が上なのだ!」


 ディグベスバの頭部はアクベスバと同様、ソニックブレスを撃つワニ頭、ファイアボルトを連射する黒猫頭、ファイアボールを吐くカラス頭を持っている。


 レーネはソニックブレスをチャージしながら、ファイアボルト・ファイアボールを撃ち出す。さらに抜剣。


「そんなもので! このアクベスバ2を倒せると思っているのか!」


 熊の体が立ち上がり両腕を上げて、防御球殻と合わせ、それらを防ぐ。


「ハッハッハ! なんと脆弱な! それでも新型魔獣か! いや、アクベスバ2が強すぎるのか!」


「馬鹿な! ディグベスバだぞ!?」


 レーネの焦燥は戦意を大いに挫いた。


「た、隊長!?」


 その間にまた一人、ディグベスバを召喚。


「怯むな! こちらは五人だぞ! 一斉にかかれ!」


 レーネは剣をフィスに向ける。


 六人目もディグベスバ召喚。


 伸びている二人を除き、全員が魔獣騎士となってしまった。


「纏めてかかってこい!」


 フィスは嘲笑って第2形体のままレーネに突進した。


「リーフ家の騎士が魔導師ごときに負けるか!」


 ……なんだか正体の目星つけられているし……


 レーネの突き出した剣が防御球殻にぶつかって阻まれる。


 それどころか彼女は跳ね飛ばされ、クローゼットに叩きつけられてそこを半壊してしまう。


 レーネ自身も防御球殻で守られてはいたが、ひっくり返されて動けず、ソニックブレスも邪魔されて中断していた。


「利かないな! 防御球殻がその程度で破れないことも知らないのか!? 二本差しとは言え、所詮は無学な騎士か!」


 こんな時ながら、魔導師と騎士の中の悪さを改めて実感した。


 魔導師が騎士を『無学・浅学』と嘲れば、騎士は『机上の空論・戦場に行かない臆病者』と見下す。


 実際の所、魔導師は戦場を知らないし、騎士は魔導学について割と無知だ。


 だからお互いを論っても利も益もない。


 そんなことをするのは凡人だけだ。


 しかし凡人が多いのも事実。


 レーネ一派が二本差しであろうと、付け入る隙はそこにありそうだわ。


 アクベスバ2はフィスの自信作だけあって、恐ろしいまでの強さを見せた。


 いやあたしは正直、戦慄した。


 あのディグベスバを歯牙にもかけないのよ!


「これがディグベスバ!? 複合多頭の新鋭型!? どこがだ!? 看板に偽りありだ!」


「ええい! なぜだ!? なぜディグベスバで歯が立たない!?」


 群がるほかのディグベスバも弾き飛ばされ、踏みつけられ、ねじ伏せられていた。


 ファイアボールやファイアボルトも躱され、防がれる。


 ソニックブレスはチャージさせない。


 格闘戦ではパワーもスピードも及ばない。


「弱い! 脆い! 拙い! 儚い! 情けない! それでも己らは帝国の騎士か!? 二本差しか!?」


 フィスは勝ち誇って叫ぶ。


 この状況はあたしの望んだものに間違いない。


 でも――でも、この魔獣・アクベスバ2の実力は異常だ。


 ディグベスバは現在創造しうる最高水準の魔獣。


 何かを参考にしたとしても、ここまで飛躍的な魔獣が創れるものかしら!?


 こんな魔獣を創れるのなら、リュースがアクベルトを見せる前にハズバーンの改良型だって創れただろうに――


「何やってんだアリシア!?」


 戦いを避けていたあたしに向け、リュースが呼ぶ。


 アクベスバを創った本人が、ディグベスバに劣る魔獣を創る訳が――


 えっ!?


 リュースの魔獣が……二つの頭部と右前脚と潰されて、尾――蛇だった――も半分に千切れている!?


 確かに敵はディグベスバが五体。


 苦戦は当然でも……アクベスバ2の圧倒的な強さに比べ……差がない?


 うーん……でも……


「エル王女を連れ去るなら、メイドたるあたしも連れて行きなさい!」


 ここでリュースを見逃せば、あたしに咎は及ばない。


 全てリュースの独断だ。


 でもあたしには、ミアに頼まれた大切な役目があった。


 リンゼータのことをこの非常識皇子に任せるには不安が大きかったし、それに、なぜフィスがくっついて来たのかがどうしても引っ掛かっている。


 あたしの返答にリュースはあっけに取られる。


「はあ!? 元よりそのつもりだぜ!?」


 抱き締めたリンゼータを自分の前に乗せながら、密約を知らないリュースは首を傾げる。


 そうよね。でも――


「これ三人乗れるの!?」


 そちらを心配してしまった。


「時間がないんだ。アリシアが太ってなければ大丈夫だろ!」


 失礼ね!


 太れる程栄養状態良くないわよ……最近はリンゼータの相伴にあずかってるから自信ないけども……


 脱走の為に用意していた、手荷物を収めたトランク(容量が小さく前回には使わなかった。逃走用荷物の入ったトランクは家に置いてあった)を持ち、あたしがリュースの背中にしがみ付く頃には、戦いの趨勢は決まっていた。


 ナントカ家赤薔薇騎士隊全滅。


 途中から十分予想できたけども、この結末は不安と恐怖に彩られていた。


「フェルディナント皇子、解っておいでか! エル王女が連れ去られたとなると、グリーンフィールド国王に退位を迫っている以上、交戦は避けられないのですぞ!」


 レーネの哀願じみた説得に、リュースは鼻で笑う。


「そんなことおれの知ったことか! 大体な、皇帝(おやじ)は許さん。リンゼータをこんな所に閉じ込めやがって!」


 許す許さないって、そっちのことだったのね。


「アリシア殿! 良いのか、エル王女は女王になれないのですぞ!」


「女王になったからって、幸せになれるのかしら?」


 あたしの答えにレーネは驚愕で目を見開いた。


 そして――急に涙を流した。


「待って! 待ってくれっ! 王女に逃げられたら、リーフ家は取り潰しになる!」


『取り潰し』――それは明日からのパンの糧を失うことを意味する。しかし――


 あたしは、リンゼータを絶対に助けると誓った。


 大きな対価を払っても!


 そのために誰かが不幸になっても!


 リンゼータが女王になろうが、ならなかろうが、どこかで誰かが不幸になる。


 彼女はそんな立場の娘なの。


 嫌なら全てを投げ出せば良かった。


 友達を辞めれば良かった。


 あたしは自分の意志でそれをしなかった。


 だから――


 彼女の友達であることを選んだ時点で、あたしはあたしの信念を、正義を、命懸けて貫き徹すしかない。


 沢山の不幸の上に立つことになっても!


 この娘の家が潰れて、一族路頭に迷うことになろうとも!


「フェルディナント皇子! あたしは大丈夫です! どうか王女と一緒にお連れ下さい!」


「エル王女! フェルディナント皇子!」


 レーネは、みっともない程の大声で泣いた。


 それを尻目に、リュースは窓の外に身を躍らせた。

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