裏切り 1
1.
墓荒らしを三人分やって、その遺骨を持ったまま。
あたし達はリンゼータに面会するため、城へと急いだ。
墓堀に時間をかけ過ぎて、昼食は正午をかなり過ぎ馬車の中で堅パンとチーズだけで、リュースが文句一つ言わないのが何だか腹立たしかった。
リンゼータの料理はとっても上手で、それに比べたらあたしの持って来た保存食なんて犬のエサ並。
だから文句言って欲しかった。リンゼータの料理は旨かった。
リンゼータの料理以下だ。
リンゼータの料理がいい。
リンゼータの料理が食べたい……
どうして文句の一つも言わないの!?
もう、リンゼータは料理を作らせて貰えないのよ!?
ゆっくり帰ったために、城についた時は夕方近くになっていた。
城門はリュースのおかげで顔パス。
城に入って1階と2階は同、顔パス。
問題は3階へ行く階段前で引っ掛かった。
リュースが。
「皇子、周囲空間の歪曲率が高過ぎます」
先に通行許可を得たあたしの後ろで、衛兵が両手を広げて通せんぼ。
2階までは周囲空間歪曲率はスルーされた。
周囲空間に収納している物が多い程、歪曲率が高くなる。
リュースは何でもかんでもやたらめったら異空間に放り込む癖があり、周囲空間の歪曲率はすこぶる高い。
普通、異空間にはあまり大量に収納しない。
異空間に収納していても、動かすのは自力で動かさないといけないから、多いと疲れる。
要は見えないだけで荷物なの。
運ぶには自力か、または動力が必要。
コイツは異空間内で、創りかけとか試作型の魔獣に引っ張らせている。
そんな物まで入れているから、尚更周囲空間の歪曲率は大きくなる。
あたしは異空間に収納しているのは、本を二冊と小物少々。
魔導杖は腰に差している。
だからサッと出してすぐに通行許可が出たのに。
周囲空間歪曲率が高いと引っ掛かる可能性が高かったのに、『皇子だから止められないだろう』と本人は高をくくっていたから。
または何も考えていないから。
後者の可能性が高いわ。
「皇子、周囲空間のこの歪曲率は何を入れています?」
「んー、色々」
「色々は知っています」
知っているの? 有名ね。
足を止め、軽く振り返って様子を見る。
「しかしエル王女とお会いするのなら、余計な物の持ち込みは禁止です」
「どうして?」
……どうしてもよ。
「規則ですから」
規則です。
安全のために武器の持ち込み、不審者の隠匿を防ぐための。
皇子でも厳しいのね。あれ? いつもは?
「それから魔導杖もお預かりします」
「んー? 杖を預けたら異空間に収納した物をどうやって出すんだ?」
「……出してから、お預かりします」
「んー」
リュースは腰から杖を引抜く。
「ベ・グ」
精霊語で唱えられてほぼ一瞬で発生した魔法陣が床ではなく、腰の高さに広がる。
そして――
ドサドサ。
本・謎のラクガキ・読めない図面の束がそこから落ちる。
皇子は自分の背中に杖を向ける。
異空間に収納していても、見えないだけで入れた位置は変わらない。
ただ自分の移動に合わせてついてくれだけ。
だから入れた物を出すには手を入れて取るか、直下に魔法陣を展開する。
つまりこやつの場合、手を突っ込んでゴソゴソしないなら、魔法陣を幾つも作る必要がある。
「ベ・グ」
次に――
ゴトゴト。
左前で魔力計・鋏・カッター・ニッパーの工具類。
リュースの手首が翻る。
「ペ・グ」
続いて――
皇子から見て右に発生した魔法陣から落ちた黒い影は、カサカサカサと床を走って壁を上る。
その正体は……
「キャー、蜘蛛!」
メイドが叫んだ。
蜘蛛で驚かないでよ。
まあ仕事柄、只の蜘蛛だったら驚かなかっただろうけど。
サイズは非常識よね。
胴体は男の拳より大きく、脚のときたら、太さは男の指ほど、伸ばせば男の指三本分、主食は推定ネズミか雀。
創ったのは本人。
メイドが杖を向けて魔法の糸を飛ばし、それを絡め取っている。
ネズミやゴキブリや普通の蜘蛛相手の魔法だから、天才の創った巨大蜘蛛に通じるかしら?
「ベ・グ」
皇子はまた魔法陣を創る。
そして出て来たのは、これも普通サイズには程遠い大きさの――
「気を付けろ! 巨大サソリだ!」
サソリも隠していたのね。
コイツの異空間にはサソリやクモがゴソゴソ這っているの?
コイツの動きに合わせてちゃんとついて来るように、異空間内に仕切りでもあるのかしらね……
走り出すサソリを追って、衛兵が何やら棒のような物で叩いている音がする。
「ベ・グ」
リュースは気にしないで魔法陣を続々と創り、今度は羽音がした。
「どわーっ!? ハチだ! 化物みたいにでかいぞ!」
もう何も言わない。
衛兵さえもオタオタしている。
「キャー!? イモムシの大軍!?」
……もう知らない。
「箒持ってこい!」
「いや、焼き殺せ!」
「こら! 潰したら食べられないだろ!」
食べるの?
「皇子、イモムシは食べ物ではありません!」
「キール食べるよ?」
「それは変人です!」
それはキツネです。
はあ……
皇子はまだ杖を動かす。
「ベ・グ」
「猫の生首だ!?」
「ヤギの頭!?」
聞こえない!
何も聞こえない!
知らない!
何も知らない!
メイドも衛兵も鳴き声だった。
ご愁傷様。
「うわーっ、魔獣だ!」
トドメか。
異空間内で、コイツに物を引っ張らせていたのか。
大丈夫。多分大人しいわよ。
衛兵やメイドの大騒ぎが聞こえる。
しかし最後の一つがあんまりで――
「何です、これは? 土まみれではないですか。あまり不潔な物を持ち込まないで下さいよ、皇子」
あ、それは本日最大のイベント。
「何ですかこれは……ギャーッ! ギャーッ! ガイコツ!?」
そう。
それも三人分。
まさか骨とは、奇襲攻撃ね。
あたしは大混乱している様に呆れて、溜息をついて階段をゆっくり上がった。
「全部出したぞ。上がっていいか」
「はい、いいです!」
「出さした物ちゃんと返せよ。出した奴が片づけないと、アリシアがうるさくて――」
あたしがうるさくなくても、自分で片づけなさい……って、そうよね。
いつもだったら散らかし放題でも、リンゼータが文句一つ言わないでちゃんと片づけしてくれるのよね。
また溜息が出た。
「あー、アリシア、おれを置いてくなよ!」
あー、リュース、あたしを巻き込まないでよ!
リンゼータが幽閉されているのは8階だった。
お姫様が捕らわれるのは塔の天辺。
しかし5階まで階段をひたすら登ることはなかった。
階段を登って、フロアを端から端まで突っ切って、登ってフロアを突っ切って階段を登って……大変だった。
「逃げ出しても途中で捕まえる構造なのね……」
「どしたのアリシア? 疲れた? 運動不足? 太った?」
「太ってない!」
実は、なんか最近胸だけは大きくなっている気がするわ……
8階へ上がる階段の前で、再びリュースは止められた。
「フェルディナント皇子は、皇帝陛下直々の許可がない限り、ここをお通しする訳には参りません」
三人の中年のメイドがリュースと押し止める。
「下で周囲空間の物は全部出したぞ? なんでこの上親父の許可がいる?」
「皇帝陛下の御命令です。下は皇帝陛下の命令ではなく、警戒態勢のためです」
ここから上は管轄が変わって、尚も厳しくなるのね。
説明ありがとう。
「くそっ! 親父の許可がいるってのか! いいよ! 貰ってきてやるよ!」
リュースは癇癪を起こし、皇子にあるまじき低レベルな捨て台詞を残して走り去った。
また向こうでモメなければいいケド……
「あたしはいいですよね? エル王女とは長い友人です。こないだも皇帝陛下と一緒に主賓に呼ばれましたし……」
自分でも何を根拠に頼んでいるのか、わからなくなってしまったわ。
ううっ、緊張する……




