地域復興の龍神祭
「つーわけで、後は頼むわ。 お前ら」
「いきなりなんだよ、 爺さん」
極東の島国である日本。 そこの田舎に存在する家の中で特に意味もなく、 ごろごろしていた少年とその友人達は、 いきなり少年の祖父からそんなことを言われた。
「いやな、 最近、 地域復興っていうのが話題じゃねえか」
「……聞いたことあるな。 でも、 こんな村に地域復興のアイデアとかないだろ」
「あるんだよなぁ。 それが」
フフフ、 と意味深に笑いながら、 祖父が広げたのは古い巻物だった。 巻物には雨を降らす龍とそれに反応する人々が描かれていた。 解説ともいうべき文も載っていたが、 崩している昔の文字など、 勉強嫌いな少年達には通じるはずもない。
「なんだこれ? 売るのか?」
「んなわきゃねえだろう。 よく聞きな」
そう言って、 祖父が語りだすのは、 この地域の伝説『龍神伝説』だった。
曰く、 かなり昔、 この地域は酷い雨不足に悩まされていたという。 このままでは田畑の作物は枯れてしまう。
村の人々が困っていたところ、 旅の僧侶が現れてこう言ったという。
「これは山奥の湖に住むという龍神の怒りが原因だ。 龍神の怒りを鎮めるために、 祭具を集め、 盛大な祭りを開かなければならない」
戦乱によって近くの村々は荒廃し、 そのまま廃墟となってしまった村もある。 話を聞いた村もかなり貧しい暮らしを強いられていたという。 それに、 村の周りには危険も多かった。 凶暴な野生動物に人を人と思わない山賊。 村の外に出るのにも生命のリスクが存在する時代だった。
村の者達がしり込みする中、 ある若者が立ち上がった。 彼は家族が止めるのも聞かずに、 村を出て、 僧侶に言われた通りに祭具を集めて見せたのだ。
当然、 その旅路は楽なものではなかったという。 しかし、 そんな苦難を乗り越えた青年の頑張りを讃え、 村は出来うる限りの盛大な祭りを行ったという。
結果として雨は降り、 村の危機は救われた。 その後も、 村は青年の勇気ある行いを忘れないように、 一年に一度、青年が進んだという旅路を歩いていくことを組み込んだ祭りを催したという……
「そんな祭りがあったなんて聞いたことがないんだが」
「じゃろうなぁ、 儂も知ったの昨日じゃし」
「本当に大丈夫なん? 作り話とかじゃなくて?」
「大丈夫大丈夫。 学者先生のお墨付きじゃ」
口々に不安と不満を口にする少年達。 次に出てくるであろう言葉が予測できたからだろうか。
そうして、 祖父の口から出たのは少年達の予想通りの言葉だった。
「祭りで使ったという大まかなルートを学者先生が割り出したから、 試しにお前らひとっ走り行ってこい」
「嫌です」
「何言ってんだこのジジイ」
「お爺ちゃん、 晩御飯は先週食べたでしょ?」
祖父が見せるルート表はフルマラソンもかくやと言わんばかりのものであった。 当然、 拒否する少年達。
しかし、 そんな少年達を見て、 祖父はにやりと笑う。
「実はな〜昔にこの祭りに参加した男共はその後かなりモテたそうじゃ。 なんで終盤には独り身の男共による苛烈な競争でけが人が出たほどだそうでな」
「ふ〜ん、 で?」
祖父の言葉に一瞬だけ反応する少年達。 しかし、 この真夏にフルマラソンはきつい。 きつすぎる。
「それで、 テレビ局もこの話に乗り気での。 地元出身のアイドルがレポーターとして取材に来るそうじゃ。 お近づきになれるとは思わんか?」
ほれ、 この子じゃ。
そう言って、 差し出されたのはアイドル雑誌の最新号だ。 開かれたページには現在売り出し中の女性アイドルが写っている。 もちろん、 少年達も彼女のファンだ。
「まー、 無理って言うんならしょうがないわな。 別の奴に任せるか」
「誰もやらないとは言ってないんだよなあ」
「昔の奴にできたんだ。 天才である俺にできない道理はない」
「二人には厳しいでしょう。 僕に任せてください」
かくして、 少年達は龍神祭の試走を行うことになった。
しかし、 障害は真夏の気温と太陽だけではなかった。
「あれ? 君達は一体……」
「『龍神祭』の試走です。 お姉さんは?」
「この地域の伝説に興味があってね……『龍神伝説』って知ってる?」
ある時は、 謎の美人学者と出会い。
「なんで、 こんなとこにイノシシが出るんだよ!」
「しかも、 めっちゃキレてんぞ! 俺たちなんもしてねえぞ!」
ある時はなぜか怒りを満面にしたイノシシに襲われ。
「フフフ……そこまでだ!」
「!? 何者だ!」
「我々は、 恋人ができるという龍神祭に参加しながらも恋人ができなかった者達の無念と嫉妬の想いから生まれた者……これ以上、 リア充、 違った。 無用な犠牲者を出させるわけにはいかん!」
「おい、 こいつ嫉妬心を隠そうともしないぞ」
「というより、 龍神祭が行われていた当時って、 結婚が当然の話で、 それができなかったってことは人格の方に問題があったからでは……」
「人格に問題がなかったら、 こんな形で怨霊にならないのでは?」
「なるほど」
「確かに」
「お前らぁ! こういうネタにマジレスするのはどうかと思うぞ!」
「お前、 本当に昔の人?」
ある時は自称怨霊に道を遮られ。
そして……
「!? これは……」
「まさかこれが龍神祭の真実……!?」
彼らは知る。 歴史の陰に隠された『龍神祭の真実』を。
「どうする……!? もうこれ、 俺達で何とかしていい話じゃねえぞ……!」
「決まってんじゃねえか……!」
真実を知った少年達。 彼らの取った選択とは―――!
『地域復興の龍神祭』連載版、 近日公開―――!
※ 嘘です。 単発ネタです。