1話 彼の財布は一文無し
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とある町、とある広場にて。
「金銭は命より重いのです!」
と大声で豪語する少女。周りとは違う少し豪華な服装も相まって周囲から注目を浴びてしまっていた。
「はぁ……。」
その少女に詰め寄られた当の相手はうんざりといった様子である。彼は少女とは違い、あまり目立ちたくないのか誰がどう見ても普通の人、といった風貌をしていた。しかし、少女のせいでそれがあまり意味を成していない。
「はぁ、じゃないですよ!せっかく私が稼いだ分を無駄遣いしたのは誰ですか!?私の大事なお金を……!」
「ナンノコトカナ?」
「忘れたとは言わせませんよ?旅に必要なお金として置いていた私との共有財産を使い切ったのを!」
そういいながら彼女は財布を取り出し、ひっくり返す。残念ながら何も出てこない。
「盗られたんじゃないのカナ?」
彼は未だ認める気はないようだ。しかし誰がどう見ても嘘なのは口調から分かる。彼自身も元々隠す気がないようだ。
「もう……ほら、このままだと馬車のみ豪華なだけで食事が質素になりますよ。稼ぎに出かけましょう。」
そういいながら彼女は彼の襟首を掴んで引きずっていった。
「いーやーだー!はーたーらーきーたーくーなーいー!!」
彼の断末魔が広場に響く。彼女らが消えると広場はいつも通りの喧騒に戻った。
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私の名前はミルフィーユ・ローゼンメイデン。皆からはフィーユと呼ばれてます。母親譲りの銀髪セミロングに翡翠の瞳。自分自身でもそれなりに見た目には自信があります。私は商家の娘でその血筋のせいかお金には厳しい性格をしている……と思います。というより私の旧友がそう言うのだからそうなのでしょうといった感じです。
その旧友……今私が引きずって働かせようとしているこの人はマーラ・フォイエル。大体の事に興味が薄く、怠惰を極めた人。できるだけ働かないをモットーに生きているダメ人間ですね。なのにお金においては強欲で持ったら殆ど使い切るといった状態。何で私がこんなのと友人でいるのかというと、この人こんなのでも頭だけはいいんですよ。頭だけは。ええ。喋る本であったらどれほど良かったことか。食費はかかりますし反抗もしますしで。
「フィーユさんや、この移動はいつ終わるので。僕もう疲れた。」
「貴方は座ってるだけでしょう!?馬車をずっと操作してる私の身になってから言ってください!」
現在私たちはこの内装が無駄に豪華になった(私たちの経費を勝手にマーラが使ったせい)馬車を使って次の働き場を求めて次の都心部を目指して旅をしています。無駄に豪華にしたから中は居心地良いはずなのですが……。それでも疲れたなどと文句を言っているこの人を一回馬車から蹴落としたいですね本当に。
「えー。後どれくらいかかるので。」
「日が沈む前にはつきますからそこで宿をとりますよ。」
流石に日が沈むと外を出歩くのは危険なのでそれより前には到着する予定です。今のところこれと言ったアクシデントはありませんし、そのまま予定通りの時刻につくでしょう。結局双方無言になり、カタカタと馬車の音だけがしばらく響く。今日の宿のことを考えてふと思い出した。
「ねぇ、マーラ。今日の自分の宿代くらいはきちんと持っているでしょうね?」
「……。」
「……。」
聞こえているはずなのに返事が返ってこない。嫌な予感しかしません。
「ねぇ、持ってますよね……?」
怖々ともう一度聞く。
「……ナイデス。」
彼の小さなその言葉だけが馬車内に嫌に響いた。
「はい?貴方今日どうやって過ごすつもりだったんですか!」
野宿なんて私はしたくないです。いくら行商人紛いのことをしているとはいえ焚火囲んで野宿はする気毛頭ありません。だから私たちは毎日宿をとって転々としているのです。毎日宿代くらいはいるのはわかっているはずですが。
「いや、これだけ改良したらこの馬車で寝れるかなって。うん。」
彼は目を逸らしながら言い訳を述べる。
「あの?私は外で寝るのは嫌だと言いましたよね?」
少し苛立ちながら私は問い詰める。
「いやまぁ、そうはいったけどここ外じゃないじゃん?馬車の中だから良いかなって。」
「詭弁ですよねそれ!?」
「きちんと言わないフィーユが悪い☆」
これだからこの人は……。詭弁の塊ですからねこの人。とりあえず振り落としましょうかね。「えい。」
私は馬車をあえてグラグラと左右に揺らす。当然中は大変なことになります。
「ちょ、ちょ。フィーユさん悪かったって!落ちる!」
「全く。今回は私が出してあげますから明日からきちんと宿代くらいは残すようにお願いしますね。」
「はいはい。」
「はい、は一回ですよ。」
この人反省してるんですかね。おそらくしてないでしょうけども。もういつものことですから諦めてますが。大体お金は私2人分常備してますし。というかそうでもしないと野宿とかする羽目になりますしね。
「次のいい商売先が見つかるといいのですけど……。ここ最近実入りが少ないですし。」
「そうだなぁ、戦争でも起きたら物価が変わって僕たちは得するんだけどね。その代わり危険も伴うけど。」
「物騒なことを言わないでください。平和が一番ですよ。」
「まぁそれもそうだけど。」
そう、国同士の戦争などが長らく起こっていない状態のせいか物価の変動が一切なくて私たち行商人は厳しい世の中になってしまっている。だからこそどうにかして稼ごうと私が奮闘しているのですが、どこかの誰かさんが食い潰すので貯蓄がない状態がずっと続いている。
「はー。一攫千金!みたいなこと起こってほしいです。もしくは玉の輿でもいいですよ。」
「そんなことあるわけ。」
「ですよねー。」
そんな夢物語をぼーっと考えていると関所が見えてきた。次の街が近い証拠ですね。
「検問を行う。荷物を見せてもらってもいいか?」
衛兵が私たちを見て声をかけてきた。別に見られて困る物は一切乗せてないのですぐに降りて中を見せる。衛兵はざっと見渡した後、門を開けに行った。
「異常なし。通っていいぞ。」
「ありがとうございます。」
この平和な世の中、検問も緩くなってしまっていて、一々中身を丁寧に見る風習は廃れてしまった。正直関所がある意味が未だに分かっていない。こんな確認しかしない検問に何の意味があるのかは謎。まぁでもこの仕事を奪ってしまうと路頭に迷う方々が出てきてしまうから残しているのではと私は考えているのですけど。
「ほんと雑だよねこの検問。やる必要あるのかな。」
「ないとは思いますけどやらない理由もないですからね。一応他国に行くわけですし。」
「まぁそれもそうか。」
無事検問も終わり、関所を通過した。後少しで今日の宿へたどり着きますね。早くゆっくりしたいものです。誰かさんと違って私は頑張って運んでますからね!
作者が気が向いたときにのんびりと更新していきます。