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歩きスマホ撲滅小説  作者: 切羽未依
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男の娘メイドとヘンタイ兄

 歯を磨いて顔を洗って分け目の肌色も鮮やかに髪を七三にして弟が手洗いしてアイロンをかけたスーツを着てネクタイを締めて、着替えても同じドブネズミ色で着替えたように見えない…革靴をはいて、革靴も重くて動きづらいと思う。登庁するお兄ちゃんを俺はメイド服のままお見送りする。玄関でおむすびを入れたランチバッグを渡す。これもな、俺が中学の時、家庭科で縫ったランチバッグ。どこかに置き忘れてくれって思ってんだけど、いっつもちゃんと持って帰って来るよな。

「具はね」

「それは!言わないでくれ!」

 ってお兄ちゃんが言うけど、俺は言う。

「卵焼きの方から梅干し梅干し梅干し」

「梅干しだけかーいっ!」

 ナイスツッコミが入る時だけ、俺はこの人が自分の兄でよかったと思う。ほんとは卵焼き(しょうゆ味)から梅干し・大葉みその焼きおにぎりをのりで巻いたの・きんぴらごぼう。できた弟すぎる、俺! きんぴらごぼうは、おむすびの具が他になかったと気付かれないことを祈る!

「いつもありがとうな」

「どういたしまして。――行ってらっしゃいませ、お兄様」

「お。おう。行って来ます」

 あのね、アラサー兄が家庭内課金を支払ってまでしてメイド服の弟に『お兄様』言われて、はにかむって、こっちが恥ずいんですけど! お兄ちゃんは回れ右して、カギを開けてドアを開けて出て行く。はー、行ってくれた。と思ったら、オートロックのドアが閉まる寸前、バーンッと大きくドアを開け放って戻って来たよ。

「何?ハンカチとティッシュならズボンのポケットに入れてあるよ」

「お前は家にいなさい」

 内心、俺は舌を出す。けれど外面(そとづら)はかわいいメイド服の弟のままでお兄ちゃんを両方の人差し指でピッと指す。

「妻は家にいろってタイプだよね、お兄様は」

「あ、まあ・・・そうだな。家にいてくれるなら、いてくれた方が。もちろん本人の意志が第一だが。やりたいことがあるなら止めるものではない――」

 今のノリツッコミじゃなくて、ガチ答えでしたよ、この人。どうして弟がいきなり兄の妻の理想を聞いて来たのかわからないって顔を、俺は見上げて笑うしかない。

「早く行きなよ。行ってらっしゃい」

 ひらひら両手を振る。お兄ちゃんは俺をじっと見下ろす。ここは必殺!カワイイを武器にして上目づかいの目を開きっ放しにしてウルウルさせて、ちょこっと口を開けたポカン顔で見返す。メイドの頭に付いてるヒラヒラと、エプロンのフリフリの純白の後光が、ぺかーん! 秒殺でカワイイに敗北したお兄ちゃんは顔を赤らめ、高鳴る胸を押さえてうつむく。

「むしろ俺がこのまま家にいたい」

「とっとと出てけ!ヘンタイ兄!」

 お兄ちゃんはぴょこんっと顔を上げる。

「これはこれで別の意味で、いい・・・」

 メイド服の弟に罵られて、「いい」ってラピュタの「いい」のアクセントで言わないでくれる?プリーズ。

「お兄ちゃん、東京の平和を守るためにがんばるから!」

 今のでやる気スイッチが入っちゃって抱き締めて来る腕を押しのけて俺はドアを開けて、ヘンタイ兄をニーハイの白ソックスの足で蹴り出す。はあああ、もう。うぎゃっ! オートロックのドアが閉まる寸前、またバーンッと大きくドアを開け放って戻って来た!もはや展開がゾンビ映画だよ!

「せめて写真撮っていい? 待ち受けにしていい?」

 って俺に突き出すスマホ、すでに俺の高校の入学式の写真なんですけど。

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