第九十三話 交差する運命
「おい、聞いたか最近入った新入りの話」
ここは、アクアジェラート中層にある食堂。
囚人たちは、あるニューフェイスの話で持ち切りだ。
「ああ聞いたぜ、深海層のガラスを割って入ってきたっていうじゃねえか。もう、回し車が水車みてぇにビショビショでよう。掃除が大変だったんだぜ」
「ああそうさ、2時間も作業が止まっちまった。その新入り袋叩きに合うかと思ったぜ」
「それが違うんだ。ベテランのノランが言うには、奴は回し車の回転する摩擦で炎出したって言うんだぜ。そんな新人、聞いたことねえよ。50回転のクラノスケも霞んじまったな〜ガハハハ」
「こりゃあ俺たちも負けてられねえな。いくぜ」
こうして男たちは食事をかっこみ戦場へと向かった。
アクアジェラート深層
今日も、このフロアでは男たちが発電している。
その中でも二つの回し車が一際回転数を上げていた。
「もうバテたのか、クラノスケ?そんな回転じゃ、燃えやしねえ。
氷河期だったら寒さで死んじまうぞ。回転数を上げろ」
「うるせえ、変態全裸やろう!!
これから本気出すんだよおおお、ゆううにばあああす」
クラノスケは限界を超えて回し車を回す。
ペース配分そんなことは知ったことかと言わんばかりの気迫だ。まさにガチンコ回し車クラブである。
二人が1日に発電する電力だけで施設が三ヶ月は余裕で稼働できるようだ。
2時間後
マサムネとクラノスケは回し車を降り、食堂で並んで休憩している。
「ハァ・・ハァ・・・ハァ・・・おい・・・マサムネとか言ったか・・・
貴様、プリシラたんのこと・・・好きなのか・・・」
「へっへっへ・・・なんだお前、心配なのか・・・安心しろ。
おれはな・・・熟女好きだ!!生粋のな!!!」
「バカな・・・熟女好き・・・だと・・・それなのに何故あんなにもパワーが出せるっていうんだ・・・ロリコンは熟女好きに劣るというのか・・・」
「馬鹿野郎・・・いつからお前はロリコン代表になったんだ!!甘えてるんじゃねえ!!真のロリコンってのは、対象から甘えられるんだ!!まだお前は器じゃねえってことだよ」
「確かに・・・貴様の言うとおりかもしれん・・・まさかこの歳になって教えられるとはな・・・」
「ばっかやろう!人生これからじゃねえか・・・くよくよすんじゃねえよ!」
「くっそやろうが、泣いてなんかねえ・・・
泣いてなんかねえぞ!これは汗だ!!」
二人の間に奇妙な友情が生まれつつあった。
「じゃあよ、マサムネ、なんで貴様は発電してるんだ?
熟女好きなら、プリシラタイムはいらない筈だろ?」
「強いていうならば修行のためかな。倒したい奴がいるんだ」
「誰だ?何なら手を貸してやってもいいぞ。発電仲間のよしみだ」
「トウ・バレンシアという地蔵だ。魔界九家最強らしい・・・」
「九家最強か・・・シャー・カーンが言っていたな・・・奴は物理攻撃無効らしいぞ・・・見るからに脳筋の貴様じゃ無理じゃないのか?」
「物理攻撃無効・・・くそう・・・魔法神の呪いさえ解ければ・・・」
「うん?貴様、魔法神になんかされたのか?」
「ああ・・・何故かはわからないが、魔法が全く使えない呪いをつけられているんだ・・・。俺が何したっていうんだよ・・・」
「・・・そうなのか・・・それは難儀だな・・・」
「ああ・・・」
二人の間に重い空気が流れた。
「まあ、落ち込んでも仕方ない!武神がさ、頑張れば2%くらいは勝てるって言ってくれたんだ。だから頑張るよ。気を使わないでくれよ、クラノスケ!」
「バッカやろう・・・誰が気なんて使うかよ!走るぞ!!走って忘れよう」
こうして二人は並んで回し車の中を走り出す。
一度交わりかけた二人の運命はここで急展開をむかえることになる。