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ユニバース!  作者: ふぁい
第七章 水牢都市大脱出編
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第九十 話 めぐりあいムショ

「おい、聞いたか?最近入った新入りの話」



ここは、アクアジェラートの中層にある食堂。

囚人たちは、ここで配給される食事を食べる。


「ああ、聞いたぜ。初日から50回転たぁ、そんな奴聞いたことねえ」


「ベテランのノランが言ってたぜ、瞳に炎が宿っているってな、奴は本気だ。本気でプリシラタイムを狙っている」



「おれたちも、新入りなんかに負けてられねえな、いくぜ」



こうして、食事をかっこみ、男たちは戦場へと向かった。



アクアジェラートは、表層、中層、深層に分かれている。

中層から、下の層は海の中だ。

建物内の酸素の供給と電力は海流発電を基本としている。

海流の動きでタービンを動かし、電気を館内へと循環させているのだ。


それにプラスして、囚人たちに深層で回し車の中を走らせている。

万が一海流が止まった時の為の予備電力だ。


約2時間ぐらい囚人たちは回し車の中を走る。



沢山まわした分だけ電力は発生する。

走るペースは自由だ。歩いてもいい。ゆっくり走ってもいい。

なんなら何もしなくてもいい。義務ではない。

回し車はあくまで自由労働だ。

檻の中で刑期が過ぎるのをただ待つだけでも問題はない。



だが、そんな囚人は一人もいない。一人もいないのだ。

皆、回転数を上げることで得られる褒美を狙っている。


刑期が短くなる?違う。そんな仕組みはない。

褒美はただ一つ「プリシラタイム」だ。


累計1億ボルトの発電をした者は、監獄長であるプリシラとティータイムをすることができるのだ。漢たちは回し車内を走ってタービンを回す。

ここはロリ奴隷たちの巣なのだ。



「プリシラたん、ぺろぺろおおおおお」



クラノスケは、今日も全力発電している。



アクアジェラートに入って1週間、食事とトイレ以外は回し車の中にいる。

連続で回し車の中にいられるのは6時間までだ。それ以降は、1時間の休憩を取るルールが定まっている。囚人たちが体調を壊さない措置だ。


クラノスケはルールを守り、体調管理も完璧にし、回し車に臨んでいる。



「よう、あんたが噂の新入りか、精がでるな」



隣の回し車で走っているハゲマッチョが話しかけてきた。



「夢のため・・・いや、おれは今を懸命に生きている。それだけさ」



そういうと、クラノスケは走るペースを上げる。

刑期が短くなるわけじゃない。愛する妻に会えるわけじゃない。

ただプリシラたんに会いたい。それだけの理由でクラノスケは走った。



「アンタには負けたぜ、クラさんアンタこそ、真の戦士」




ハゲマッチョは諦めて、回し車を降りていった。

構わず、クラノスケは回転数を上げる。



「ゆにばあああああああす」


世界の名前を声高に叫びながら・・・。





どれぐらい走ったのだろう。

回転数は日々上がっている。気持ちの強さが限界を超えることを肌で感じた。

ふと上を見上げると、ガラス張りの窓から海中が見える。

深層に入った頃は気持ち悪いと思っていた魚たちも見慣れてきた。

だが、今日は深海魚たちの様子がオカシイ。




(何かあるのか?)



クラノスケは海の異変に気づく。

自分の発電力に呼応した・・・違う。

どうやら魚たちが、群れをなして何かから逃げているようだ。



(なんだ?何かがこっちに迫ってくる・・・あれは・・ぜ)




▼▼▼



アクアジェラート近くの海岸。


老人は海を見ていた。



毎日のようにこの海岸に来ている。ただ波の音を聞く。

それだけで、心が癒される。


先日、五十年連れ添った妻が他界した。そこにいることが当たり前だっただけに、突然の別れは、堪えた。何もする気がおきなかったのだ。


自分も妻の後を追おうと海に身を投げようとした。

ふと空を見上げると、流れ星が空から降ってきていた。



「こんな暗くもない夕方になんだアレは・・・」



老人はつい声を上げて流星を見ていた。魅了されていた。

世の中には自分の価値観を遥かに超えた綺麗なモノがある。

それを目の当たりにした瞬間だった。



老人は、今日も海へ行く。

死ぬためではない。今日もあの流星に会える気がして。

遠く、地平線に沈みそうになっている夕日がとても綺麗だった。




ガコッ



音がした。堤防に何かがぶつかった音だ。



「漂着物か・・・何じゃあれは」



波に乗り、堤防に激突しているのは大きな鍋だった。




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