第八十九話 救出部隊
クラノスケが、看守長に会って、少しときめいている頃。
レオンガルドを出発した馬車は、水牢都市アクアジェラートを目指す。
その場所は、北の魔法宮ディバインセレナの東、雪山を一つ超えると、
海がみえてくる。氷山に囲まれた海、そこに水牢都市はある。
レオンガルド王国裁判で有罪になった者、裁判にかけるまでもなく凶悪な犯罪を行なった者が幽閉される。
クラノスケや、シャー・カーンなどのA級戦犯は、無条件で幽閉確定だ。
馬車の車内に、四人の冒険者が乗っている。
一人は、小柄なドワーフの男。
一人は、大柄なリザードマン。
一人は、幼い獣人の剣士。
一人は、金髪のエルフ。
「それにしてもよく急な収集だったのに集まったわね。元【抜群】さん」
金髪のエルフ、ビビこと、ヴァルヴァラ・ニコラエヴナは、他の冒険者に向かって話す。
【抜群】とは、クラノスケが将軍時代に作った対魔族用の特殊部隊である。
「そらあ、将軍の一大事となりゃあワシらが行くしかないじゃろ。なあトラムよ」
油がついたベトベトの髭をさわりながら答えたのは、ドワーフの男、ゾファル・ノートだ。
ゾファルは、隣のリザードマン、トラム・ザムに同意を求める。
トラムは、ゾファルにニコリと微笑む。言葉は発しない。というより発することができないのだ。
「ふふふ、嬉しそうじゃな。わかるぞぉ・・・。将軍は服のセンスは最悪じゃったが、指示は的確、魔法のセンスも抜群の武人じゃ。殺すには惜しい・・・久々にワシの得物も暴れさせねばのう・・・」
「浮かれ過ぎよ。ゾファル。遊びに行くのではない。気をひきしめよ」
そう言ったのは、ネコ科の獣人剣士ネルヴァ・ミーチェ。
グリフォン級でもトップクラスの実力を誇った剣士だ。その見た目に似合わない剣戟から、幼剣と呼ばれ、モンスターだけでなく冒険者からも畏れられた。一部の紳士には神聖視されていたのは秘密だ。
(本当にこいつら強いのかしら・・・。無口のワニ野郎に、汚らしいドワーフ、あげくの果てにリーダーっぽい剣士が幼女って・・・。不安だわ)
ビビは初対面から3人にどんの引きだ。
「なんじゃ千里弓、ワシらの実力が未知数すぎて不安か?ガハハハ。心配なら、後ろで見ているといいわい。道はワシらが切り開く、失敗すればおまえさんは、逃げればええんじゃ」
そういってゾファルは、豪快に笑う。
馬車の周りを雪がチラチラと降り始めていた。
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一方その頃、アクアジェラートでは。
「ハイル・プリシラ!!プリシラ様に栄光あれ!!」
深層部で、200人を超える大多数のオッサンたちが、回し車の中を走っている。
回し車を人力で動かすことで監獄内の電気をまかなっているようだ。
回転が上がれば上がるほど、強い電力を生み出す。
クラノスケはというと、入所初日で、1分間に50回転する前人未到の記録を打ち立てた。服役20年のベテラン囚人ノラン・ラムスコスキーはこう言った。
「10年・・・いや100年に1人の逸材が入ってきた。奴はエースだ」と。