第八十八話 深海の中の絶望
(む・・・暗いな・・・こうも暗いと今が、昼なのか夜なのかわからない・・・。エレベーターに載せられてから気を失っていたようだ・・・。20分・・・くらいか・・・もっとか?・・・今もこのエレベーターは下へ降りていっている・・・どこまでいくのだ・・・。くそう・・・『水牢都市』というだけあって、このエレベーターは海の中を降りていっている。水圧も増してきている。これはどう足掻いても逃げられない・・・どうせ・・・こんな暗い海の底で暮らすならば死んだほうがマシかもしれん・・・。自害するしかない。房江・・・すまない。お腹の中の子ども・・・楽しみだったなあ・・・一目見たかった・・・)
チン
エレベーターは目的の階層で止まり、ドアが開く。
黒に近い深い色の蒼だった。水族館の中を通るような、上部がガラス張りの回廊。
だが、遊び気分で鑑賞できるようなゆとりはない。見た事もないカタチの魚がうじゃうじゃいる。
光の届かない深海層だからこそ、歪に進化した魚ばかりなのだろう。目が退化してなくなってしまったものや、異様に大きい触手を持つ魚が泳いでいる。
クラノスケはため息をつく。
(最後に見る景色が、こんな食欲も失せるような魚かよ・・・。ヒドい最後だ・・・)
うつむきながら、クラノスケは、重い足を上げてゆっくりと回廊を進む。
しばらくすると、電子錠の自動ドアが目の前に出現する。
「9678番、入れ」
号令とともに、自動ドアが開く。
蛍光灯が眩しい部屋だった。
余りの明るさに一瞬目が眩んだクラノスケだが、だんだんと目が慣れてくる。
机や椅子がピンクを基調としたファンシーな物ばかりだった。
部屋の端に置いてあるテーブルには、カワイイぬいぐるみが陳列されている。
部屋の奥から声が聞こえる。
「アタチが、監獄長のプリシラだ!この犯罪ちゃめー覚悟ちろ!!」
真っ黒のコートに身をつつみ、紅いベレー帽を冠った幼女がそこにいた。
腕を組み、胸をそらし、精一杯自分を大きく見せようとしているが、
クラノスケの半分にも満たない大きさだ。
(もう少しだけ・・・生きよう)
クラノスケは拳を握りしめ、強く、強く心に誓った。