第八十六話 マサムネの初○○
「さっむ、さっむ、さっむ」
マサムネは、寒さのあまり飛び起きた。
見知らぬ天井だった。
マサムネは、辺りを見回す。
殺風景な部屋だった。
全面を古い木で作られ、マサムネが眠っていたと思われるベッドも、
ギイギイときしんでいる。
「どこかから風が入ってないか?」
どうやらすきま風が入ってくるくらいこの部屋は弱っている。
「目覚めたか」
声のする方へ視線を向けると少年が座っていた。
ベッドのすぐ隣にある椅子に腰掛け、何やら小さな本を読んでいる。
「君が助けてくれたのか?」
「まあ、ここまで運んだ」
「君の名前は?」
「タウ・ミノフスキン」
「どこかで聞いたことがあるような、ないような・・・。
とにかく助けてくれてありがとう。あ・・・
左腕がない・・・体質が変わったのか・・・」
マサムネは今にも泣き出しそうだ。
ジェット噴射する地蔵が現れて、左手を切断された。
その後、魂が抜けるぐらいボコボコに殴られたことを思い出してきたのだ。
「おれの左手・・・でも、不思議と身体全体的に痛みがないな・・・。
骨折と内出血しまくりだと思っていたのだが・・・」
「タウが治した。左腕もそのうち生えてくる」
少年は自分のことを名前で読んでいる。
そういうブームがやってきているのだろうか。
「えっ?なんか貴重な薬でも飲ませてくれたのかい」
「違う、マサムネを拾った時に、闘気の流れが止められていた。
だから、再生能力も機能していなかったんだ。
気が流れるツボを連打したから、もう治ってるハズ」
淡々とタウは、話す。
「ありがとうございます!でも、おれ、名前言ったっけ?うん?寝言?闘気って何?」
「名前は言ってない。寝言はなかったがイビキが耳障り。
闘気は、体内に流れる生命力のこと。魔力と対をなす力。マサムネは、
魔力が全く流れていない。体内にはたくさんある。でも、流れていない。
アレクシアのせい。タウは魔力のことは治せない。闘気は専門家」
無口そうに見えて結構よく喋る子どもだった。
「闘気か・・・そんなものがあったのか・・・。でも、なぜ流れなくなっていたのだろう。
魔法・・・使いたいぜ!!そしたらあの地蔵にも勝てるかもしれん」
闘気が流れだしたからなのか、希望が湧いてきたからなのだろうか、
マサムネの顔に生気が戻ってきている。
「闘気の流れを断ち切る武器がある。あと、地蔵は、流れを止める力がある」
「地蔵を知っているのか?」
「知っている、タウが育てた。神以外ならユニバース最強。トウ・バレンシアという。
昔はおしゃべりな奴だったが、漂白剤を飲んだら地蔵になった」
「俺の知っている漂白剤と違うんだな・・・。
しかし、ユニバース最強か・・・おもしれえ・・・おもしれえよ。
なあ、タウ!どうしたら俺は地蔵に勝てる?アイツの師匠なんだろ?
わかるなら教えてくれよ」
マサムネは立ち上がり、掛け布団を吹き飛ばす。安定の全裸だ。
「どう足掻いても勝てない。トウは強い、マサムネは弱い。魔力も使えない。
防御力もない。闘気もうまく使えていない。勝てる見込みなし。思い上がるな」
色々教えてくれるから優しいタイプかと思えば、舐めたこと言う奴には厳しかった。
「勝てる見込み・・・0%ってこと?」
「・・・2%くらいはある。だが運が必要。あとはひたすら努力」
「2%か・・・悪くない賭けだ。タウ、お願いだ俺を鍛えてくれ!!
負けたままじゃいられねえ・・・頼む」
見ず知らずの少年に対してノータイムで土下座する全裸男がそこにいた。
タウはしばらくマサムネを見ていた。マサムネは黙って土下座をし続けている。
1時間後
「わかった。その変わり、弱音を1文字でも吐くと爆発する首輪をつける。
それが条件。やれることは全部やる」
「やった!!ありがとう。タウ!!弱音は吐かねえ!」
「そうか。じゃあまずは肉体改造から」
「おう、筋トレか!得意だぜ!」
マサムネはピョンピョンとその場で飛び跳ねたり、屈伸運動をし始めた。
「それはしなくていい。今からこれに入れ」
タウが空中に手をかざすと、大きな鍋とコンロが現れた。
「マサムネを溶かす。まずはそれから」
ユニバースに転移し、マサムネは初めてどん引きした。