第八十五話 音が聞こえる
「うんうん、理屈はわかったわ。でも、そんなに上手くいくかしら?」
ビビはスノウからクラノスケ救出作戦の概要を説明された。
あまりの情報量に髪型がアフロヘアーになりそうだ。
「大丈夫です。運命神のご加護があらんことを」
「こちとら、武神の選定者だっつうの。
ところでさ、最初からクラノスケを逮捕しなかったら、
こんな面倒なことしなくて済んだんじゃないの?国の宰相なんでしょ?」
ビビは素朴な疑問を投げかける。賢者は頭が良すぎて単純なことがわからなくなってしまったのかもしれない。そんな邪推までした。
「1度投獄されることが大切なのです。理由は直接彼を見ればわかりますよ」
スノウはぼんやりとした回答をする。
もしかしたらコイツも何も考えてなどいないのかもしれない。
ビビの脳裏に嫌な予感がしてくる。
「そういうものかしら・・・」
ビビは腑に落ちないまま、応接間を後にした。
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カコーン
音が聞こえる。
ノースノーザンパイル。
厳しい寒さにより、生物が生きていけないといっても過言ではない、死の山。
そんな極寒の大地に、音が聞こえる。
カコーン
音は一定のリズムで繰り返し鳴っている。
カコーン
男が大樹に斧を打ちつけているのだ。
大樹は、関取が3人分入るくらい太い。
カコーン
大樹には傷一つ付かない。
それもそのはず、この樹は『ガオケレナ』
ユグドラシルの樹木と並ぶ伝説の巨樹だ。
極寒の地に負けないその生命力はユグドラシル以上かもしれない。
だが、男は愚痴一つこぼさず、黙々と斧を打ちつける。
それでもガオケレナに傷はつかない。
カコーン
雪が降り積もる絶対零度の霊山であるが、
その男は、その場においてもなお、見間違いでもなく、
まぎれもなく全裸だった――
カコーン
生命が育たない極寒の地に雄々しく立つガオケレナのように、
その男も何か信念がある。そう感じさせるぐらい圧倒的に全裸だった。
カコーン
「遅い。もっと速く振る」
カコーン
全裸の男の傍には、これまた似つかわしくない少年が一人。
何やら、男に助言をしているようだ。
カコーン
未踏の霊山に乾いた音が鳴り響く。
音は太陽が沈んでもなお、一定のリズムで鳴り続けていた。