第八十三話 回想そして、現代へ
「・・・・よごせ!」
黒髪の男——クラノスケはゼノンから転移石を強奪し、上階へと戻った。
嘆きの遺跡、地下十階。
エステルとビビは、クラノスケとゼノンを仲間に加え、
ダンジョンを攻略していた。
地下10階層のボス、ミノタウロスを撃破した後に、
いない筈のドラゴンが出現している。
ゼノンは、ドラゴンのブレスに吹き飛ばされ、
ビビとクラノスケは転移石を使い、地上へと戻った。
エステルは、一人、ドラゴンの前へ取り残された。
「・・・まあ、こんなものかしらね。カーボフルネイト!」
エステルは、ゼノンの方へ手の平を向け、詠唱する。
失った腕の治療ではない。ゼノンをレリーフへと変えてしまった。
「これで・・・よしっと。それ」
エステルは、レリーフに手をかざす。
レリーフは宙に浮き、部屋の壁際まで移動していく。
「さてと」
エステルは、ゆっくりとドラゴンの方向へ身体を向け、近づいていく。
部屋の中が静まりかえり、エステルの靴の音だけが地下に響きわたる。
「ちょっとはしゃぎすぎね」
エステルは、笑ってはいるが、凄まじい圧力をドラゴンは感じていた。
先ほどまで冒険者を震え上がらせていたドラゴンが、今や子どものように怯えている。
「が・・・あが・・・」
「言い訳なんて聞きたくないわ。もっとゆっくり二人の力を知りたかったのに・・・。
手加減できないなんて・・・お粗末ね。
ビビの方は火力不足ね。武器がまるでダメだわ。
クラノスケは・・・素質ありかしらね。目的の為になり振りかまっていない所がカワイイじゃない。
あの子は、どん底へ落とせば落とすほどもがくのかしら・・・。ふふふ、楽しみね」
エステルはそのまま煙のように消えてしまった。
ドラゴンは、胸をなでおろす。
気づいたら汗をびっしょりとかき、地面は汗で水たまりができていた。
お香のような残り香が、部屋にただよっていた。
▼▼▼
「 あとは・・・嘆きの遺跡のことね・・・。
あの時の事は、絶対に忘れないわ。
一番印象的なのは、自身の無力だった。
ドラゴンには、アタシの弓は全く歯が立たなかった。
アニメで見た剣士の技を真似てみたが、全く通用しない。
アタシは弱い・・・。実感した。
これから選定者との闘いになったら生き残れないかもしれない・・・。
正直、そんな不安な気持ちになったわ。
アタシが遺跡の入口でぐったりしていたら、クラノスケが転移してきた。
クラノスケはエステルが後で来ると言っていたの。
そのとき、なんとなくエステルは、帰ってこない気がした。勘だけどね。
クラノスケが後ろめたそうな顔をしていたから、きっと嘘をついたんだと思う。
もしかしたら、転移石をエステルから奪ったのかもしれない。勘よ。
なんとなく嫌な感じがしたけど、責める気にはならなかった。
動く気力がわかなかったから、その場でへたり込んでいたら、
受付のおじさんに話しかけられたわ。
あの感じだと、アタシとクラノスケを気遣ってくれたみたい。優しい気持ちが嬉しかった。ミノタウロスを倒したのは最速記録だって、自分のことのように喜んでくれたことも嬉しかったわ。
それで、受付のおじさんの勧めで、宿屋に帰ることにしたのよ。
しばらく身体を休めて、体調が万全になったらイチから鍛えなおそう。
そんな風に考えていたら、王国の賢者が部屋にやってきた。
白いお髭の蒼いローブのおじいちゃん。まさかあのおじいちゃんと、あなたが同一人物だなんてね。
アタシを王国の新設部隊にこないかという勧誘だった。
知ってるよね?貴方が変装?変化して目の前にいたんだから。
断ったわ。アタシはもっと一人で自分を追い込みたかったから。
それからの事は・・・また別の機会に話すわ。
とりあえず、スノウ、あなたに話すべきなのは、アタシが転移者になった経緯と、
クラノスケのことよね。それからのクラノスケのことは、貴方のほうが詳しいでしょ?
アタシの話はこれでおしまい。ダラダラと長くなってしまってごめんね」
レオンガルドの応接間、カイ・ウォーターサーブとレツ・グラビアノス連合軍を追い払った後、
ビビとスノウは情報共有をしていた。
「いえいえ、話してくれてありがとうございます。
では、選定者の・・・私たちのこれからの話をしましょう」
スノウは不敵な笑みを浮かべた。




