第八十二話 本当のことを話す
「・・・ビビ、どうしたの?バタバタしていたけど・・・」
エステルが目覚めた。
(確かに急いで窓まで行ったけど、音出したかしら・・・。
どうしよう、エステルに選定者のことを話すべきかな・・・。パーティを組む以上、黒髪の男と対峙した際はエステルにも危害が及ぶかもしれない。よし、ざっくりと説明しよう)
この間、2秒。
「エステル・・・実はアタシはこの石を持つ者を探しているの」
ビビはエステルに翠色の石を見せる。
「ふぁあああ、ああ・・・神フォンね」
欠伸をしながらエステルは答えた。
「どうして?!なんでエステルがこれ知ってるの?」
「知ってるも何も、私、運命神」
ぶっちゃけるにも程があった。
(運命神・・・たしかエスタ・ユングとか言ったっけ・・・。武神と並ぶユニバース創造神の一人・・・なんでアタシと一緒にお酒飲んでたの?)
「あ、その顔は、また忘れてる。もうこれで438回目の説明よ。
酒場で、何回も運命神って名乗らせないで欲しいわ。もう一度言うわよ」
エステルは部屋に備え付けてあるメモに自分の名前を書き出した。
『ester yunge』
「ユニバースでは、エステル・ヤンジーと名乗っていますが、
エスタ・ユングとも読めるでしょう?」
「ああ・・・あああ」
ビビは驚きで顎が外れそうになっていたが、無理矢理入れ直した。
「本当に運命神様なの・・なのですか?」
「敬語じゃなくていいわよ。どうせタウにもタメ口聞いてたんでしょう?」
エステルは意地悪そうな表情で笑っている。
「じゃ、じゃあ、遠慮なく。どうして運命神が人間界で冒険者をしているの?」
「色々理由はありますが、一番は『神の遊び』ですね。
冒険者って便利なのですよ。運命に介入したい時にすんなりできますし」
エステルは、淡々と質問に答えていく。
介入という言葉が少しひっかかるが。
「そう・・・。あなたも誰かに神フォンだっけ?その石を渡したの?」
「ふふふ。まあ、そうですね。その人については追々説明しますよ。
あなたにとって無関係とも言いがたい人ですし」
エステルは端々に、気になることを散りばめてくる。
正体が判明してから、ビビはエステルに畏れの感情を抱きはじめた。
「それでビビ。その石を見せてくるということは、魔法神の選定者が見つかったの?」
ビビは向かいの宿に泊まっている男が光る石を持っていることを説明した。
「神フォンを光る状態にしているバカ本当にいたんだ・・・。直接見ないで良かったわ」
それからすぐに、エステルは、目を閉じて瞑想を始めた。
何かを考えているのだろうか。
「見えた・・・3階の角部屋。黒髪の青年がいるわ」
「見えたってどうやって?千里眼?すごい技を持っているのね。さすが神様・・・。
どうする?ここからなら弓で狙えることもないんだけれど」
(正直、実戦がまだだから自信なんてないんだけれど)
「まだ早くない?せっかくあなたの同郷の人に会えたんだし、まあまあかっこ良かったわ
よ。黒髪で黒目。ユニバースでは珍しいわよ。私はとても興味があるわ。
なんなら一緒に冒険なんかしちゃったりして 」
エステルは、またも意地悪そうな少年のような顔をして笑っている。
「そんなリスクは負わないわよ。もう一度言うわ。そんなリスクは負わない」
「ふふふ・・・とか言って実際はどんな奴か気になっている癖に。
とりあえず2人で接触すれば向こうの神フォンが振動したって、どっちかなんてわからないわよ。二人とも亜人なんだし。バカそうだから気づかないかもよ。
決まりね。明日、アタックしてみましょう」
こうして、エステルとビビは神フォンを光らせた男『クラノスケ』と、嘆きの遺跡に行くことになる。