第八十一話 遭遇
ビビは、トラバキアの酒場で意気投合した二人——行商人ヤグルシと、女獣人エステルと馬車に乗っている。
経緯は、ビビが酩酊していたため定かではないが、恐らく、酒の席で意気投合したのだろう。
エステルは神官として冒険者をやっており、ヤグルシも行商をしに様々な街へと旅をしているそうだ。
そしてレオンガルドへ行きたいビビと意気投合し、現在に至る。
「ビビさん、エステルさん、もうすぐレオンガルドに着きますよ」
3人を乗せた馬車はレオンガルドへと到着する。
「では、アッシはここで失礼しやす」
「え、ヤグルシさんは、ギルドへ行かないの?」
「ビビさん、言ってませんでしたか?アッシは、これからユグドラシルの森へ用事があるんでさあ。運が良ければイレギュラーの顔も拝見したいのでね」
「イレギュラー?何それ?」
ビビはきょとんとした表情で質問する。
「いいからいいから、ヤグルシさんまたお会いする機会があればよろしくお願いします。
神のご加護があらんことを」
「シシシシ、エステルさんがおっしゃると、深みがありますねぇ。ではでは運命神の加護があらんことを」
そう、言い残しヤグルシは、南の荒野へと旅立っていった。
(ヤグルシの奴・・・どうせ祈るなら武神にしなさいよ。武神って有名じゃない神なのかな?でも、創造神の一人っていうぐらいだから、スゴい筈よね。気前良かったし)
「さて、ビビさん、パーティを組むことになったのだけれど、どういたします?
ギルドでクエストを受注しますか?」
エステルは、神官帽を冠りなおし、ビビに提案する。
「そうねえ・・・まずは酒よ!!情報収集しましょ?」
ビビはスゴい勢いでエステルの腕をつかみ、二人は酒場を放浪した。
「からぁい!!でも、このお刺身すごく美味しいわ。辛い調味料と合う、身もコリコリしていて、歯ごたえも良いし♩エステルって美味しい料理のお店知っているのね」
ビビはレオンガルドの料理にご満悦だ。
「ふふふ、それは、西の海で穫れたクラーケンのお肉ですね。日本で言うところのイカみたいな怪物です。美味しいでしょ?」
「うん?エステルって、日本を知っているの?」
「ふふふ、トラバキアでも話しましたよ?酔って忘れたのですか?」
「エヘへへ、あの時はねーちょっと飲み過ぎちゃったからねー今度は、忘れないから教えてよー」
「ふふふ、実は・・・あ、ビビさんその貝はダメ!!」
その後、エステルはビビに何かを言おうとしたのだが、ビビが何かを口に入れた瞬間倒れてしまう。
口に入れたのは、『ハイバイ貝』という海の秘宝と名高い貝だ。食べると強烈な旨味が全身を駆け巡るのだが、圧倒的な味の情報量により脳がシャットダウンしてしまう恐ろしい食べ物なのだ。
一晩気絶すると何事もなく回復するのだが、女性の一人飲みの際などは非常に危ない。
翌朝
ビビは酒場のカウンターではなく、ベッドの上で目覚めた。
ダブルベッドだ。隣に誰かいる。毛布に包まっていて誰だかわからない。
(なんてこと。昨晩の記憶がないわ。エステル確か日本のこと言ってなかったかしら・・・。
きっと酔ったアタシが、勢いでエステルに自分の故郷のこと話しちゃったんだわ・・・。ホント、アタシのバカバカ。異世界で迂闊すぎるわよ・・・しかも隣には知らない人が寝てるし・・・)
ビビは、恐る恐る毛布をめくってみる。
狸型の女獣人が気持ち良さそうに寝息を立てていた。
普段は、神官帽を冠っていて見えないが、丸い耳がとてもかわいい。
(守りたい・・・この狸・・・)
ビビが新たな扉を開けようとした瞬間、突如、外が光に包まれた!!
(何よ・・・戦争でも始まったの?)
ビビは、急いで窓に近づき、外を見る。
踞っている人、目を抑えて何やら叫んでいる人、阿鼻叫喚の地獄だった。
そんな中、慌てて何かを服の中にしまった男が一人。
(黒髪・・・ユニバースでは珍しい髪色ね・・・。はううう)
急に腰につけていた道具袋が震え、ビビは反応してしまう。
武神から貰った石が震えていたのだ。
「ビンゴ!!見つけたわ!!」
ビビは思わず、右手を上げ叫んでしまった。




