第八十話 火の7日間
「うへぇ〜気持ち悪ぅう」
ビビは飲んだくれていた。
特に嫌なこともなかったのだが、異世界の雰囲気でテンションが上がってしまったのだ。
前世の記憶は、まるでなかったが、酒に強いことが判明した。
それが拍車をかけた。
金はある。酒に強い。楽しい。
酒を飲まずにはいられなかった。
そんなに金があるなら、奢ってくれよと、タカってくる者もいた。
そんな奴はジョッキでブチのめした。
二度とそんな口が聞けないように顎を砕いておく。
それがビビの流儀だ。
「この金はもう、アタシのものだ。好きに使わせてもらう」
テーブルの上に乗り、ビビは高らかに宣言する。
生活保護受給者で、酒ばかり飲み、このような考えの者がいたら、日本は終わる。
ユニバースに転移して正解だ。
しかしながら、情報も多く集まった。
1つ目は、ユニバース創造神の名前、
アレクシア・グッドローズ、タウ・ミノフスキン、エスタ・ユング。
どうやら転移前に会った少年は、武神だったようだ。
注文すると簡単にスキルを付与してくれたいい奴が、本当はスゴい神だったなんて驚きだ。
2つ目の情報として、冒険者は、レオンガルドに集結しているということ。
どうやら、東の山脈から魔族軍が現れて人間に悪さを働いているようだ。
どうせ冒険者をするならば、最前線で自分の力を試したいとビビは思った。
旅の方針が決まった。
【冒険者をやりながらレオンガルドを目指す】
大都市で、凄腕の冒険者に囲まれれば、他の選定者を見つけることができるかもしれない。相手の持っている石が光れば御の字だ。もちろんそんな隙だらけのバカはいないと思うが。
「方針が決まった所で、かんぱーーーい」
ビビは高らかにジョッキを持ち上げるとそのまま中身を一気飲みする。
こうして、方針を決めた事すら忘れ、ビビは酒に浸り続けた。
後にトラバキアギルド常連冒険者、鋼のダストンは語る。
このビビが飲み続けた1週間を『火の7日間』と。
7日後。
「うぇぇぇ、気持ちわるい・・・」
ビビは、またも酔っぱらっている。
馬車の揺れも相まって、本当に苦しそうだ。
「もう、ビビはお酒には強いですけど、ペース配分がわかっていないようですね」
「キシシシ、まったくでさぁ、でもあの飲みっぷりは見ているこっちも気持ちがいいってもんですぜ」
「ふふふ、そうね。でも、この調子じゃあ、昨晩の会話も覚えていないでしょうね」
「キシシシ、まあ、アッシがまた説明しときますヨ。エステルさんは、馬車でゆっくり休んでくだせえ」
「ふふふ、任せたわ。よろしく、ヤグルシさん」
神官の格好をした女獣人エステル、旅の商人ヤグルシ、金髪のエルフビビ、三人を乗せた馬車は、レオンガルドへと向かう。