第七十八話 ビビの場合
女は目を覚ました。
真っ白い空間だった。
遠くを見ても白、白、白。
白い地面が無限に広がっている。
そんな空間に一人、仰向けに倒れていたのだ。
「目覚めた?ニコラエヴナ」
振り向くと少年が立っている。
顔は青白く、生気がなさそうな印象を受けた。
「ここはどこ?あなたは?」
「僕は、タウ・ミノフスキン。この世界で神と呼ばれる存在。
ニコラエヴナ、君はさっき死んだよ」
少年は淡々と女に告げる。
「・・・そう、なのね。全く思い出せないわ」
女は目覚める前のことが思い出せずにいた。
「そう。君はヴァルヴァラ・ニコラエヴナ。18歳。
ロシア人と日本人のハーフだ。日本の高校に通っている。
愛称はビビ。部活は弓道部、主将だった。恋人はいない。
良く笑い、間違ったことは、ハッキリ間違っているという性格だった。
どう?何か思い出した?」
タウと名乗る少年は、淡々とビビに告げていく。
「ごめんなさい。まだピンとこないわ。神様、教えてくれない?
私はどうやって死んだのですか?事故死?」
「殺されたよ。後ろから頸動脈を斬られて出血多量で。
救急車も間に合わなかった。犯人は、同級生の不動って奴だよ。
ストーカーされていたのかな?君のことが好きだったみたい」
「そう・・・なのね。思い出さない方がいいのかしら。
それで・・・神様はどうして私とお話しているのですか?
天国か地獄行きかを決めるのですか?」
「違う。天国や地獄はない。そんなものはないんだ。
死んだら転生して循環していく。だが、君は違う。
君は選ばれた。選定者ってやつ。
ユニバースって異世界に転移して。そこで、あと二人、選定者がいるから殺してもらう」
「異世界?映画みたいな世界なのかしら?魔法とかできるやつ?
・・・殺すって・・・同じ日本人ですよね?何故、そんなことを?」
「ユニバースの認識はそれで合ってる。ファンタジーの世界。
人殺し・・・やりたくなかったら無理にやらなくていいよ。
どうせ、この勝負は神同士の面子の問題なんだ。
勝ちたがっているやつは、魔法BBAぐらいだし。
異世界で自由に生きたらいい。他の選定者が狙ってくるかもだけれど、
それだけ気をつけたらいい」
「結構、緩いのですね・・・。わかったわ。
でも、相手を殺すかどうかは・・・多分無理だと思う。
ちなみに、どれが他の選定者かはわかるの?」
「この石、他の選定者が近くにいると光る。あげる」
「待って、そんな目立つ機能いらないわ。光らない設定はできるの?」
「できる。近くにいたら震える設定」
「マナーモードみたいなこともできるのね。じゃあ、設定を教えて。
あと、見た目も変えたいのだけれどいいかしら?エルフなんかだと嬉しいのだけれど」
「できる」
「じゃあ、お願いします。他に気配察知能力的なスキルはある?」
「できる。五感系の能力をマックスにした」
「そう、ありがとうございます。あと、武器系の能力も欲しいわ」
「わかった。じゃあ弓スキル最高にしておく」
「ありがとう。あと、できれば転移先は、街とか人がいる所いいわ。
女の子に野宿はツラすぎるわよ。後、1泊できる路銀もちょうだい。
あとはなんとかするわ」
「わかった。他にないか?」
「ないと思う・・・。あなたに連絡をとりたい場合はどうすればいの?」
「その石に念じればメッセージ送れる」
「わかったわ。そんなものかしら」
「そう、じゃあ、頑張って」
タウがうなずくとビビは光に包まれ、やがて消えた。