第七十七話 父と子
「・・・・ここはどこだ・・・」
ゼノンは、見知らぬ布団の上で目覚めた。
(・・・ジン・ノヴァの屋敷を出てからの記憶がない。
どうやら、全身から血を流したのが原因で気を失っていたようだ。
我ながら無茶をしたように思う。それよりもここは・・・)
ゼノンが寝ている布団は畳の上に敷かれていた。
ユニバースの寝室はほとんどが、ベッドだ。
人間のいる国でも、無頼国内でも同様だった。
この部屋の独特な雰囲気、見覚えがある。
「目覚めたか・・・ゼノン」
白髪の長髪、左目の眼帯。そして独特な匂い・・・。
「・・・ち、父上ですか・・・どうして・・・」
「どうしたも何も、家の前で息子が倒れていたら、手当するだろう。痛みはないか?」
「・・・はい。不思議な感じです。父上が私の心配をしてくれるなんて・・・」
「・・・そうか・・・お前の目にはワシは心配すらしないような父として写っていたのだな・・・」
ゼノンの父—―ゼン・ヴェルトは目を細めて何やら考えている。
「父上・・・実は・・・お願いがあって帰ってきた次第です」
ゼノンは重いからだを奮い立たせて起き上がる。
「・・・座ったままで良い。申せ」
「どうか・・・私に闘い方を教えていただけないでしょうか」
「・・・何故だ・・・お前は闘いになど興味がなかったのではないのか?」
「いいえ、子どもの頃からずっと強くなりたいとは、思っておりました。
ですが、自分が未熟すぎて・・・父上にも軽蔑されていたと思っていたのです。
・・・ですから父上のお顔を見るのも怖かった・・・」
「そうか・・・。お前はずっと強くなりたかったのだな・・・。だが、ゼノンよ、何故今更になってワシに頭を下げるのだ?ずっと逃げることもできたのではないか?」
「はい・・・ずっと私は逃げていました。ですが、守りたい友ができました。間違いを正してやりたいと思う友もいます。逃げてばかりでは、逃げるしか選べない。私は自分で選んでいきたい。選べる力が欲しいのです」
「なるほど・・・フラフラと人間の都に行っていたのは無駄ではなかったらしいな。
顔つきが変わってきとるのう。ゼノン・・・一つだけ約束できるか?」
「・・・なんでしょう?」
「身につけた力、魔族の為に使うと誓え」
「・・・それは誓わねばならぬのですか?」
「どうしてもというのなら・・・お試し期間でもいいよ」
「お試し期間・・・今、父上は自分の覚悟を試しておられたのではないのですか?
それに、お試し期間が存在すると言うのでしょうか?」
「・・・その通りだ。だが、お試し期間があるとはいえ、覚悟が低いとは限らぬ。そう思わぬか?決心したけど、後悔したわ。って長い人生結構あるぞ」
「はい。お試し期間があろうがなかろうが、強い覚悟はあります。しかし、後で後悔したわ。って言う人は覚悟があると言えるのでしょうか。私はすごく優柔不断なくそ野郎のように思います」
「・・・まあ、そうだな。ワシはそのような不覚悟者には技を教えぬ。それで、どうなのだ。お試し期間はいるのか?いらんのか?」
「お試し期間は、欲しいです。ですが、私の覚悟を疑われては困ります。ですので、一人だけ、殴りたい魔族がいるのです。ですので、そいつだけ殴らせてください。後は、魔族の為に力を使うと誓います」
「なるほど、その条件ならば飲もう。お前に闘い方を教えてやろう」
こうして、ゼノンは父と再会し、修行の手筈を整えた。