第七十五話 再会
「碌な思い出がないな・・・」
ゼノンの思い出は苦いモノばかりだった。
トウ・バレンシアが漂白剤を飲んだ後も、ゼノンイジメはエスカレートし継続していく。
ゼノンは耐えるしかなかった。闇の波動が少し出たが、相変わらず魔法は上手く使えない。
父もゼノンには無関心だ。そんな境遇が辛かった。何よりも弱い自分が悔しかったのだ。
だが、悔しい気持ちがあれば大丈夫という、バレンシアの言葉だけがゼノンの支えだった。
同級生に囲まれてタコ殴りされるようなこともあった。怖くて声が出せなかった。
死にたくなるような罵声もあびせられた。だが、悔しい気持ちがある。
自分は大丈夫だ。だって最強のトウ・バレンシアが言ってくれたから。
その事実だけで地獄の境遇を乗り越えてくることができたのだ。
だが、ゼノンは思う。まだ完全には変われていない、と。
クラノスケやマサムネと出会い自信を付けてきた。だが、魔法もまだ未熟。
人間につくか、魔族につくかさえどっちつかずなのだ。
決断しなければならない。もっともっと強くならなければならない。
そして現在――
ゼノンは、寝そべっていた体勢から起き上がる。
「さて・・・いくか・・・」
目指すは実家――ゼン家である。
九家の家は、城を中心として円状に点在している。
城から見て12時の方向にリン家本家、右隣がピョウ家本家という風に順番に建てられている。
本家の近くには、それぞれ九家の特色の施設が並んでいる。
リン家区画 ゴーレムの研究施設。兵器開発も行なっている。
ピョウ家区画 美術館などの芸術鑑賞地域。
トウ家区画 コロシアム。
シャー家区画 カジノ。イカサマは即滅殺だ。
カイ家区画 温水プールと人工ビーチ。
ジン家区画 ハッピータウン。
レツ家区画 繁華街。お触りができる店もある。
ザイ家区画 武器開発
ゼン家区画 森林植物園
各魔界九家の施設区の外側が居住区。
田畑や工業区は、居住区の外側に置かれている。
ゼノンの実家であるゼン家は、城の北西あたりだ。
(・・・父に会うのは正直憂鬱だ。だが、この壁はオイラにしか超えることができない)
ゼノンは神妙な面持ちで歩きだす。気力は充分だ。
「おおお、君はもしかしてゼノン君かい?久しぶりじゃないか?
俺だよ!おれおれ!幼馴染の顔忘れちゃったのかい?」
正面から歩いてきた男がゼノンに話しかけてきた。
忘れる筈がなかった。正面から歩いてくるその男は、遠くからでも認識できた。
面倒だから逃げることもできただろう。
だが逃げるわけにはいかない。バレンシア兄が、マサムネが、ついでにクラノスケが背中を押してくれたのだ。
もうあの時の自分ではない。変わるために戻ってきたのだ。
「・・・久しぶりだな・・・ノ、ノヴァ君」
ゼノンは、声を絞り出し、プラチナ髪のイケメンを睨みつけた。