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ユニバース!  作者: ふぁい
第陸章 選ばれし者たち編
73/130

第七十三話 グズとクズ

「・・・帰ってきたのか・・・」



ゼノンは、小麦畑の上に寝そべっている。

先ほど、ヤグルシの転送魔法で麦畑に落ちて来た。

幸い、沢山の麦がクッションとなり、ケガはない。


穂がほほに当たり、香ばしい匂いが鼻をかすめる。



(懐かしいにおいだ・・・20年ぶりか・・・)


ゼノンは、久しぶりに故郷に帰り、ノスタルジックな気分に染まっていく。







20年前。

無頼国立妖魔苑にて



「はーい、みんな注目。今から魔法の実技訓練を始めまーす。

 準備はいいですか?」


「「「はーい」」」



ここは、国立妖魔苑。無頼に住む幼い魔族たちの学び舎だ。

科目は、基本的な魔法の使い方や学問、剣術に体術、馬術、礼儀作法に至るまで多岐にわたる。

魔界九家の血筋はもちろん、その分家の者など、魔族中のエリートが集まり、日々切磋琢磨している。

将来、魔族を背負ってたつ人材を、幼き頃からふるいにかける場所なのだ。


講師も魔族の間ではレジェンドと呼ばれた者ばかりで、落第などありえない。

そんなエリートたちの中に、幼いゼノンはいた。



「ファイヤーボール」


魔法の講師は、子どもたちの前で炎弾を出現させる。

炎弾は、真っすぐにとび、目の前の案山子に命中する。

焼けた小麦の匂いが、子どもたちの鼻をかすめる。



「はい、これが魔法の基礎中の基礎ファイヤーボールです。あなた方のような選ばれし子どもたちには、少し退屈かもしれませんね。ですが、魔法の深淵はファイヤーボールに始まり、ファイヤーボールに終わるとまで言われています。しっかりとやりましょう」



「「「はーい」」」


先生の説明の後、子どもたちは順番に目の前の案山子目掛けて炎弾を発射する。

途中、リン家の嫡男フレイムウォールが、地獄の炎を使い、講師に怒られていた。




「では次、ゼン・ゼノン。ゼン家の力見せてみろ」


ゼノンの番がきた。周りでは子どもたちのヒソヒソ話が聞こえてくる。

どれも、ゼノンをあざ笑う陰口ばかりだ。



「・・・タイヤーボーデ」


陰口に混乱したゼノンは、魔法の詠唱から間違えてしまう。

手の平から、分厚いタイヤが出現し、ゼノンの足下へと落下した。




「「「ぶははははは」」」



「また、あのグズがなんかやらかしたぞ」

「今度は、黒い塊だしてやがる。信じらんねぇ」

「腹痛いわ。ホント、いつも笑わせてくれるぜ」


子どもたちは爆笑の渦につつまれる。

しかし、これは全て悪意、「笑う」という幸せな行為がこうまでして邪悪なものとなるのは、皮肉なことだ。





「やめろ!!ゼノンを悪く言うのはよせ!!」


訓練場が静まりかえる。

プラチナの髪色をなびかせる少年――ジン家嫡男ノヴァだ。



「ゼノンは魔法は苦手なんだよ。誰にだって長所や短所はある。

 どうせなら、良い所を見ていこうぜ」



そう言って、ジン・ノヴァは、案山子に向かって炎の弾を放つ。

青い炎は真っすぐに飛び、案山子を燃やす。



「おい、無詠唱で魔法を飛ばしたぞ。ジン家はすげえな」

「しかも青い炎だぜ。赤い炎よりも温度が高いんだ」

「同じ子どもなのに・・・恐ろしい子」


先ほどまであざ笑っていた子どもたちが、羨望へと変わる。

もちろんゼノンに対してではない。ジン・ノヴァにだ。



「実は隠れて練習してたんだ。だからみんなもできるよ!努力は裏切らないんだ!!みんな幸せになろう!!」

 



ジン・ノヴァへの羨望が歓声へと変わる。

訓練場はノヴァへの拍手と喝采に包まれた。






授業終わり

ノヴァとゼノンは二人残っていた。

他の子どもたちは、皆、教室へと戻ったようだった。



「・・・呼び止めてごめん・・・お礼が言いたくて・・・。ありがとう・・・ノヴァ君、オイラをかばってくれて。オイラ・・・頑張るよ・・・ノヴァ君の言った通り、努力する・・・。幸せになりたいんだ。良かったらオイラと友だちになってくれない?」


ゼノンは、ノヴァに向かって右手を差し出す。

友好の証、握手だ。友好の証には魔族も人間も関係ない。




ノヴァは、ゼノンを見つめニコリと微笑む。


「調子に乗るなよ。グズ木偶の坊野郎。お前は俺の引き立て役をやっていたらいいんだ。近づくな。グズがうつる。臭い。いいか良く聞けマヌケ野郎。努力してもどうしようもないことはあるんだ。それがお前だ。だから夢を見るな。あきらめろ。臭い。息をしていられるだけでもありがたいと思え。お前の役割はこれから一生グズでいることだ。それが、魔族の為になるんだ。わかったな。わかったら返事しろ。返事もできないのか?ホント歯並びの悪い気持ち悪いヤツだぜ。二度と俺に近づくな。わかったな」


一言も噛むことなく、ノヴァの罵倒は終わった。

最後に無詠唱で水の弾を射出し、ゼノンをビショビショにさせて、ノヴァは教室へと戻っていった。

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