第七十話 地蔵からの褒美
ごおおおおおおお
プスプスプス
マサムネを殴り飛ばした地蔵は、一人地上へと降りてきた。
先ほどまで座り込んでいたレツ・グラビアノスが、跪いている。
「申し訳ありません。まさか、あなた様のお手を煩わせることになるなんて・・・」
地蔵は無表情のままレツの顔を見つめる。
そして、僧衣の懐に手をつっこみ、白い筒を取り出した。
「レツ家当主よ、このたびは大義であった。
これを授けよう」
ここにきて初めて地蔵は言葉を発した。
声はとても高く、怪音波のようだ。
白い筒をレツに手渡す。
「はっ・・・ありがとうございます。ワタクシなぞには、もったいない」
レツは、白い筒をあける。中には何やら液体が入っていた。
「あの・・・これは・・・一体・・・」
「褒美だ・・・。一気に飲むがいい」
レツは怖々と白い筒を口に運ぼうとする。
すると、何かがレツの手に当たり、筒を落としてしまった。
「キシシシ、ソイツは飲んじゃあいけないよ」
右目にモノクルをつけた出っ歯の男が現れた。
「貴様!!せっかくワタシが賜ったものを・・・なんとするのだ」
レツは右手を抑えながら、突如現れた男を威嚇する。
「それはな・・・飲み物なんかじゃねえぜ。お嬢さん。
漂白剤って言う液体だ。ユニバースじゃあんまり見かけない代物だ。
服なんかについた頑固な汚れを落とす時に使うんだ。
決して飲んではいけない。絶対にだ」
男は温厚そうな出で立ちだが、漂白剤のことに関しては、語気を強めている。
「ワケのわからんことを言うな!!そんな、眼鏡みたいなモノをつけているからって、
賢そうだなんて思わないわよ!!バカ!!ちんどりや!!」
レツは顔を真っ赤にして怒っていた。
「まあ、いいや。もうそれは・・・おじゃんだ。あとは、エスタ様からの頼みごとだなっと」
出っ歯の男は、右手で何やら印を結ぶ。
すると、上空60メートルから自由落下していたマサムネが光に包まれる。
やがて光はおさまり、マサムネはその場から消えた。
「これで・・・よしっと。じゃあアッシはこれにて失礼・・・おっと」
地蔵が急に出っ歯の男を殴りつける・・・かに見えたが、石の拳は空を切った。
「キシシシ、今のは残像ッス。九家最強とガチンコ勝負はしないッスよ。
でも、頑張ったマサムネ君の為に、これくらいはして帰ろう」
と言った出っ歯の男は両手を動かす。
空中に印を書いているようだ。
その様は、オーケストラの指揮者のようにも見える。
「よっよっよーっと」
男の両手から突風が巻き起こり、平原全体に広がっていく。
サハギンたちは突風に巻き込まれ、彼方此方へと飛ばされていった。
「よし、残業終了っと」
「待て・・・貴様・・・名をなんという」
地蔵は出っ歯の男に語りかける。
「ヤグルシ・・・また会うかもしれません。会わないかもしれません・・・」
そう言い残し、ヤグルシは消えた。
地蔵もしばらく、ヤグルシが立っていた場所を見つめていたが、
やがて、踵を返し、東の山脈の方へと飛び立っていった。