第六十八話 カイ、真っ二つ
「マジかよ・・・そんなのアリ?!」
カイはヒレの生えたマサムネに驚愕している・・・。
「聞いたことがあるわ・・・。ミレニアムアームズは、持ち主の想いを具現化することがあるって・・・。あの銀色の斧がそうなんだわ。あれこそ、神斧リサナウト!アイツが選ばれたのね」
レツは驚愕している。1000年に一度、神が創る戦闘兵器ミレニアムアームズ。
それが今、目の前で輝きを放って存在している。
「それでも、持ち主の身体が変わるなんてビックリでしょ。あり得ない」
カイはまだ現実を受け止めきれないようだ。
それもそのハズ。マサムネの頸動脈の当たりから水泡が出て来ている。
呼吸をしているのだ。マサムネの変態は、エラ呼吸をも可能にした。
「ガガガボベブゾ。ボベバラバババエル」
先ほどまで青ざめていた顔色が元に戻っていく。
酸素が体内に循環していっているようだ。
復調したマサムネは、ヒレを動かし水牢の中をかき混ぜる。
たちまち水流ができ初め、マサムネの身体を水面へと上げていく。
ヒレを持つサハギンは水中では3倍の機動力を誇った。
マサムネの身体から生えてきたヒレは、サハギンの持つ機動力の30倍は、強いヒレだ。
なので、水中で無茶苦茶、動けるのだ。
「くっ・・・呼吸ができるとはいえ、なぜ動ける・・・。
重力魔法が効いていないのか・・・。もっとGを上げ・・・」
レツが重力を強化しようとした瞬間、マサムネは水中から飛び出した。
そのまま空中で戦斧を振りかぶる。
「くらえ、チャラ男!うおおおおお」
カイ目掛けて、空から斧を振り下ろそうと落ちていく。
「ウォーターシールド!」
カイの詠唱とともに、水でできたシールドを展開する。
(プリズンから抜けだせたのは、褒めてやろう。
だが、このウォーターシールドは絶対の盾だ。
水はどんな攻撃も受け流す。絶対に効かん。
攻撃を受けきったら、私のサーフボード術を見せてやる)
マサムネは、ものすごい勢いで空から落ちてくる。
「でえりゃああああああああああああああああ」
マサムネの渾身の一撃は、水の盾に阻まれた。
だが、それは一瞬で、その衝撃は水の緩衝を貫き、
カイ・ウォーターサーブを真っ二つに切り裂いた。
「ば・・か・・・な・・・俺っちが、半分に」
足下まで戦斧を振り下ろしたマサムネは、
青い血を払い、こう言った。
「盾がなんだ。力こそパワーだ」
「信じられない・・・私の重力魔法の勢いを・・・。
地面に引き寄せられる勢いまでも利用した・・・。
ああ・・・カイ・・・なんてこと・・・」
大量の血をまき散らし、半分に斬殺されたカイの死体は、その場に倒れる。
レツ・グラビアノスはその場にへたりこむ。
身体はワナワナと震えている。
戦意喪失。勝負あり。
魔界九家二人との闘いは、からくもマサムネの勝利。
とはいかなかった。
レオンガルド、東の見張り台。
スノウは、戦況を監視し、ビビは弓で壁や敵兵士を迎撃していた。
「なんだ・・・あれは?」
スノウが、敵陣のさらに後方から迫り来る飛翔体を発見する。
「灰色の人・・・なのかしら?スゴいスピードで飛んでくるわ」
ビビも色までは判別できるが詳しくはわからない。
正体不明の飛翔体は、マサムネが闘っている戦場へと降り立つ。
「お、おまえは・・・」
マサムネは、目の前の光景に戦慄する。言葉が出て来ない。
こんなことは、考えたことがなかったからだ。
突如、地蔵が飛来した。