第六十五話 闘う理由
上空に展開された魔法陣から大量の水が落ちていく。
スゴい勢いと量だ。
瞬く間に騎馬の足の高さまで溜まってしまった。
「フィクスドフローズン!」
イヴェールは、水が落ちている魔法陣へと氷魔法を放った。
魔法陣の真下の水が、たちまち凍っていく。とりあえずの応急処置だ。
「ふう・・・なんとか溺死は免れたわ。でも・・・」
イヴェールは周囲を見渡す。
水位の上昇は止まった。
だが、魔法で凍らせている間に、今や騎馬の顔の位置まで水位が上昇してしまった。
サハギンは、魚類の性質を持つモンスターだ。
両手、両足には水かきがあり、頭頂部から背中にかけて背びれがある。
この水かきやひれを使うと水中での動きは素早くなるのだ。
逆にイヴェール率いる騎馬隊は現在身動きが取れない。
馬がほとんど動けないのだ。
馬上でオロオロしている兵士にサハギンが水中から飛び出してくる。
手に持った三叉の槍でついたり、爪で引っ掻いたり、やりたい放題だ。
溜まっている水が次第に血の色を帯びていく。
「これは、マズいですね。サハギンは海水の中だと動きが3倍早くなるんです。
反対にこちらの馬は半減以下の機動力になってしまう。
早くあの戦場を囲っている石壁を破壊せねば・・・。
誰か・・・誰かいないのか・・・」
スノウは少し冷や汗を流しながら状況を説明している。
まるで、マサムネたちに早く助けにいけと言わんばかりだ。
すると焦ったゼノンが走って、階段を降りていった。
「・・・オイラが・・・壁を殴って開けてくる・・・みんなを助ける!・・・」
「あ、待って、ゼノン・・・行っちゃった。ここからでも穴は開けられるのに」
そう言って、ビビは弓を一番近くの石壁に向け、弦をひく。
弓は力を込めてひくと、弓幹が震えてまっすぐ飛びにくくなる。
だが、ビビの引く弓は恐ろしく、静かだった。
「・・・剛弓」
ビビの手元から放たれた矢は、音を置き去りにして石壁に命中する。
壁は粉々になり、普通自動車が衝突したくらいの穴があいた。
穴から水が勢いよく流れ出ていく。
「やったわ・・・もういっちょ」
そういって二射目の準備に入った。
「さすがです。マサムネさん・・・あなたはどうしますか?
先ほどの昇格を断られてしまうと、私からお礼するものなどなさそうですが」
スノウはマサムネの顔を見つめる。
何やら真剣に考えごとをしているようだ。
数分経ち、ビビが2射目を成功させた頃、
マサムネは、ようやく重い口を開く。
「なあ・・・賢者よ。教えてくれ・・・。
あのサハギンは、食べられるのか?」
「・・・・ユニバースの歴史上、そのような記録は残っていませんね。
ただ、見た目が殆ど魚類なので内蔵を上手く処理すれば、やれないことはないのでは?」
「わかった・・・。倒したサハギンは俺が食べても問題ないな?」
「・・・ええ。まあ、お腹を壊しても知りませんよ?」
「よし、じゃあ言ってくる」
そういうとマサムネは、斧に乗って空高く舞い上がった。