第六十四話 開戦
レオンガルド東の見張り台。
城の東西南北に設置してある見張り台のうち、
これまでほとんど何も異変が起こらない場所として知られている。
見張りが当番に当たると喜ばれる場所だ。
しかし現在、マサムネたちの目の前に、明らかな殺意を持った敵が一面を覆いつくしている。
「・・・とりあえず前の方にいるのはサハギンね。数は、100万ほどかしら」
ビビが双眼鏡を見ずに答えた。
サハギンとは、水棲系のモンスターだ。半魚人の姿をして、三叉の槍で攻撃してくる。
「見えるのか?目がいいんだな」
マサムネは素直に関心した。
ビビはマサムネに褒められてご満悦だ。
「千里弓の名は伊達ではないですね・・・。こちらも手を拱いている場合ではありません。イヴェールはいますか?」
「はっ、イヴェール様は、知らせを聞いてすぐに兵士を集めております。
まもなく防衛線を張りに出撃するものと思われます」
「よろしい。サハギンならば、イヴェールに任せておけば、しばらく持つでしょう。
準備ができた兵士から随時出撃しなさい。5万人までは出撃を許可します。
イヴェールに伝えてくださいね」
スノウは伝令の兵士に魔族軍の対応を伝える。
「・・・・イヴェールって?」
ゼノンはビビに尋ねた。
「冬騎士イヴェールは、レオンガルドの四季騎士の一人よ。賢者スノウの親衛隊といったところかしら。それぞれ武芸に秀でているし、軍略もできるって話よ」
「ふふふ、ご存知ですね。ビビさんのおっしゃる通り、先ほどクラノスケを連行していった者たちも四季騎士たちです。紹介できませんでしたね。
彼女たちなら、おそらく遅れをとることはありません。ですが」
スノウが何かを言いかけているその時、
東の城門から騎馬隊が魔族軍の方へと飛び出していった。先頭を走るのは青白い髪の女騎士だった。
「あれが、イヴェールってヤツか。四季騎士ってアイスの名前みたいだな」
マサムネが吞気なことを言っているウチに、イヴェールが魔族軍とぶつかる。
どうやら、イヴェールの武器は大きな槍のようだ。回転するかのごとく槍を振り回し、サハギンたちが、どんどん吹き飛ばされて行く。
「わぁお!やるじゃない。サハギンって元々水際で強さを発揮するモンスターなのよね。だから、今目の前の地形ではそんな心配することないんじゃないの?」
ビビは笑顔でスノウに話しかけた。
「いいえ、ビビさん。ワタシは、何か嫌な予感がするのです。その証拠にほら」
スノウは、敵の軍勢の奥の方を指差す。
何やら赤い光が輝いている。
「なんだ?星か?チカチカ光っているな」
「違うわよ。マサムネ・・・あれは・・・魔法陣ね・・・しかもあの模様は・・・土魔法?」
ビビが魔法陣の種類を言い当てたと同時に、戦場の四方がせり上がっていく。
あっという間に土壁が戦場を囲み、騎馬隊とサハギンたちがすっぽりと中に入る形になった。
「・・・あれはマズいぞ・・・あれじゃあ・・・みんな逃げられない・・・」
ゼノンを初め、ビビやスノウの顔も曇っていく。
「マサムネさん、どうか、我らに今一度手を貸していただけないでしょうか。
ゼノンさん、ビビさんもどうか・・・・」
スノウが、3人に頭を下げている時に、さらに赤い光が魔族軍を照らす。
「また魔法陣・・・アレは・・・やばいわよ!!」
「水魔法だ、しかもスゴい魔力量!!」
魔法陣は戦場の真上で展開し、そこから大量の水が吹き出していった。