第六十三話 魔界九家集結
時間は少し遡る。
王都レオンガルドから東に山を5つ超えた所にある大国。
名を無頼。
四方を山脈に囲まれたこの国は、
他国の侵入・干渉を悉く拒み続けている。
実質、鎖国状態だが、そこに住む人々は活気に溢れ、
豊かな国土が作物を育んでいる。
ここは、魔族の故郷だ。
圧倒的な魔法の力が自給自足を手助けし、
他国の交流なく、何千年も不自由なく暮らしてこられたのだ。
そんな大国無頼の首都、孤月。
夜が映える白い壁に覆われた城の最上階。
鏡月円卓の間にて、5人の魔族が会合を開いていた。
カイ・ウォーターサーブ
「よーっす。なんか久しぶりに集まったにしちゃあ、人数減ってないっスか?」
口火を切ったのは、カイ家当主、カイ・ウォーターサーブ。水色の髪で、皮膚は茶色。どこぞのサーファーのような出で立ちだ。室内なのに、素肌に半袖のシャツを羽織り、割れた腹筋を惜しげもなく見せている。ズボンはもちろんハーフパンツだ。
「リンとピョウは、何者かに殺害されてしまったわ。誰がやったかは、シャーが探しているハズよ。今日は来ていないみたいね」
カイの質問に答えたのは、紫色の髪をした褐色の女魔族だ。レツ家当主、名を『レツ・グラビアノス』。ノースリーブの服を来てセクシーだ。よく見ると手首に大量のリストカットの跡がある。
「トウ殿は、どうなされた?九家筆頭が、不在では規律が乱れてしまうぞ」
左目に眼帯をした初老の男。ゼン・ヴェルトだ。ゼン家の当主で、ゼノンの父にあたる。会合にいる5人の中でも古株で風格があり、規律を重んじる人物のようだ。ちなみに九家の序列は9位。最弱だ。
「あのお方は、いつも自由に生きてらっしゃる。問題は我々が解決すればいい」
迫力あるゼン・ヴェルトに臆していない若殿が、ジン家当主、『ジン・ノヴァ』だ。
プラチナの髪色で、顔はかなり整っている。次代の九家を引っ張って行く存在だと若い魔族の中では評判だ。
「・・・問題・・・というと?」
「九家当主が二人落とされたことでしょう。兵の間でも抗戦派と降伏派に割れておる。魔族の意思決定をする我らの答えを待っておるのです」
「そりゃあ、やられたらやり返すのが、ヘッドの考え方ッショ。まさかビビってるワケ?」
「子どものケンカではあるまいし。ただ、この1000年九家当主が倒されることなぞ、なかった。我らにとっては希有なことだ。対応は慎重にせねばなるまい」
「かぁ〜これだから九家は古いとか堅いって言われるんッスヨ〜俺っちが兵出してバシっと決めてみせますヨ?」
「堅さの何が悪いのだ!!妻はずっと喜んでくれているぞ!!」
急に下ネタをぶっこむのは、ザイ家当主『ザイ・カロット』。槍の名手で、序列は2位の実力。ゼン・ヴェルトと同時期に九家当主になった為、仲がいい。武力は凄まじいものがあるのだが、竜人独特の雰囲気と下ネタとのギャップで変な空気になること多々。
「ザイさん、話ズレてますよ。槍使いとはいえ、その槍は下ネタです。逮捕」
「そうですね。レツ様のような若いおなごも同席しているのです。自重しましょう」
「そんな・・おなごだなんて、ジン様・・・」
レツはジンの言葉で少し赤くなっている。
「シャー・カーンが、何か策を練っているようだったが聞いている者はおらぬか?」
「「「「・・・・・・・」」」」
「おらぬか・・・。彼奴も独断専行が過ぎるな・・・魔族の為に動いておるのは確かなのだが、少し功名心が強いきらいがある。ヤツの帰国は待つか・・・あるいは攻めるか・・・だが、万が一敗北となるとな・・・」
「先ほどカイ様が、兵を出すとおっしゃっていましたが、ワタクシの所からも出しましょうか?それならば万に一つも負けはありえませんでしょう?」
((((ヤバい・・・これを止めたら、ワタシが女だから否定するんでしょとか言って、また手首切るぞ・・・))))
「レツ様の軍が合流するのであれば百人力ですね。では、カイ・レツ連合軍で人間どもの王都を落としましょう。確か・・・レオンガルドとか言いましたかな」
「そそそ、そうだな、そうしよう。ゼン・ヴェルト様もそれでよろしいか?息子がレオンガルドで消息を絶ったみたいですが、大丈夫ですか?」
「・・・かまわん。彼奴はもう死んだと思っている」
「ゼンさん、大丈夫ッスよ〜俺っちがそれっぽいヤツいたら、連れて帰ってきますからね〜大船に乗ったつもりで待っててくださいヨ〜」
と、カイ・ウォーターサーブはおでこに指を二本当てて満面の笑顔をゼン・ヴェルトへと向けた。
「フフフ、皆様がワタクシを認めてくれたみたいで嬉しいですわ。生きてるって実感できる。では、お望み通り、レオンガルド中の人間を生き埋めにしてきます♩」
人間は全て生き埋め。ということで、会合は終わった。
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