第六十一話 賢者からの打診
「誰だ・・・あんなジジイ知らねえぞ」
マサムネは、賢者と呼ばれた老人に心当たりがなかった。
「ほっほっほ、マサムネさん、この姿でお会いするのは初めてでしたね。
魔法宮ディバインセレナでお会いした者です。
このローブは変わっていないと思うのですが・・・。
あと、この目尻の皺も優しそうに見えるでしょう?
ジジイの時と若者の時に反映するよう最初の設定で追加したんです」
と、賢者スノウは目尻の皺を強調しながら、
身につけている蒼いローブをマサムネに見せびらかせた。
早口なのに聞き取り易い話し方だ。
見た目は老人だが、所作に若々しさを感じる。
「ああ・・・あの時の賢者なら、もちろん覚えているさ。変化の術でも使えるのか?」
「変化・・・まあそんな感じですね。
宰相の役をするには、威厳がある方が説得力があると思いましてな・・・。
ジジイを振る舞うのも楽しいですぞ。
財産や権力目当てで近づく女をまさかの絶倫で懲らしめるのですじゃ。
今思い出しても熱くなります。ほっほっほっ」
スノウが鉄板トークと言わんばかりに下ネタをくりだした。
慣れていないせいか、ゼノンの顔が真っ赤になっている。
よく見ると、側にいる緑色の女騎士も顔を赤らめている。
「不思議な術が使えるんだな。俺にも魔法をかけて欲しいぐらいだ。絶倫にしてくれ!なあ、絶倫にしてくれよ!なあ、絶倫だ!!!」
マサムネは、絶倫というワードに超反応したみたいだ。
仮にマサムネが絶倫になったとしたら、世界は終わるかもしれない。
「ほっほっほ、もっと気になることが他に沢山あると思うのですが・・・。
まずは私の仕事からさせていただきます。
ヴェスナー、ヘルヴスト、逆賊を捕らえなさい!」
スノウの号令で、後ろに控えていた女騎士が行動を開始した。
逆賊という言葉に、マサムネたちの身体が一瞬緊張したが、
どうやら捕まるのは、クラノスケとシャー・カーンのようだ。
「罪状を伝える。裏で魔族と繋がり、
我が王国軍の情報流出は、王に対する反逆行為とみなす。
クラノスケは将軍の地位を剥奪、特務隊『抜群』の解体、
水牢都市アクアジェラートに幽閉の刑に処す。
シャー・カーンは、問答無用で死刑とする。連れて行け!」
ヴェスナーと呼ばれた桃色髪の女騎士は気絶したクラノスケの頭上で罪状を読み上げ、オレンジ色の髪の女騎士ヘルヴストは、クラノスケを引きずりながら連行していった。シャー・カーンもどうやら、処刑は別の場所でするみたいで、兵士に連れて行かれた。
「クラノスケ・・・」
ゼノンは悲しそうな目でクラノスケを見つめている。
心境は複雑なようだ。
「ゼノン、くよくよしても仕方がないでしょ。とりあえず飲みにいきましょ。
賢者さんも、もう用事ないでしょ?」
ビビは急ぐようにしてその場を離れようとする。
とてつもなくお酒が飲みたいようだ。
「つれないですねぇ。千里弓。
5年前の打診を断っていることを私はまだ根に持っていますよ。
まったく・・・王国の宰相には多少愛想振りまいていた方が、
何かとお得なこともありますのに・・・。用件はもう一つあります。マサムネさんに」
「絶倫か?絶倫にしてくれるのか?」
マサムネはスノウの肩を掴んで前後に揺さぶっている。
絶倫の絶の時に前、倫の時に後ろと無駄なリズムはあった。
「絶倫は、また別の機会にしましょう。
マサムネ、王から冒険者の最上位ランク『ドラゴン級』の打診があります」




