第六十話 闘いのあと
「ふう・・・紙一重の闘いだったな・・・」
気絶しているクラノスケを見下ろしながら、
マサムネは、深く息を吐いた。
計算して戦斧を呼んだ訳ではない。
たまたま、外に放置していた戦斧が、マサムネの呼びかけにより、
下から上がってきただけだ。応接間が城の上階にあったこと。
角度的にもクラノスケの死角をとれたこと。
偶然に偶然が重なっただけなのだ。
「マサムネ・・・」
ビビとゼノンもマサムネの近くへと集まってきた。
「ゼノン、クラノスケへの復讐はいいの?
今なら、ボコり放題よ?顔に落書きでもすれば?」
小悪魔のような笑みをして、ビビはゼノンに話かける。
「・・・いや・・・いい。復讐などしても仕方がない。
大切なのは、自分の心にどうやって決着をつけるか・・・だ。
クラノスケに久しぶりにあって、彼の人間性を確認できた。
今はそれで充分だ。
そんなことより、ビビもマサムネも無事で良かった。
結果的にオイラのワガママに巻き込んでしまってすまない。
クラノスケのことは、モヤモヤする部分があるが、
これからゆっくりと折り合いをつけていくよ
二人とも、どうもありがとう」
ゼノンは、少し晴れ晴れとした顔でそう言った。
「そう・・・あなたがそう言うのなら、いいわ!
打ち上げいきましょうよ?再会祝いもかねて!!
アンタも付き合いなさいよ?」
そういって、ビビは胸を押し当てるようにマサムネの腕にしがみつく。
しかし、マサムネの股間竜が炎をはくことはなかった。
「いいぜ。エルフと話してみたかったしな。酒場へいこう」
マサムネは、キリっとした表情で応対した。
(なによ、この男・・・。アタシがこんなにもグイグイ攻めてるのに、
顔色ひとつ変えないなんて・・・燃えるわ)
ビビはマサムネ唇にあたりそうなぐらい顔を近づけて、マサムネに話しかける。
「何よ、スカした顔して・・・ゲイなの?」
「いいえ・・自分はただの年上好きです」
マサムネは毅然とした態度で応対した。
「あははは、バカね、エルフは人間よりも寿命が長いのよ?
若く見えても100歳ぐらい年上ってこともあるんだからね」
ビビは腰に手を当てて、なぜかドヤ顔でマサムネに話しかける。
挑戦的な態度も彼女の綺麗な顔をより一層ひきたてている。
ゼノンも関係ないのに顔が真っ赤になった。
「まあ・・・そういうこともあるだろうな。
でも、君はたぶん、そんなことないんだろ?
なんとなく・・・わかるぜ」
マサムネは、童貞の武士のような表情で答えた。
ビビがその一言に驚いた瞬間、
「全員・・・武器を捨てなさい。宰相がお見えです」
いきなり緑色の髪色をした女騎士が入ってくる。
銀色の鎧に身をつつんだその女性は、
男なぞ誰一人とてよせつけなさそうな雰囲気だ。
「ほっほっほ、リエータ、そう威嚇するものではありませんよ。
久しぶりですね、千里弓のビビ・・・それとマサムネさん」
リエータと呼ばれた女騎士の背後から、白い髭を蓄えた、賢者が現れた。