第五十九話 ラウンド1
「傷が、治らねぇ・・・」
マサムネは両目を見開き、驚いている。珍しい光景だ。
異世界転移してから5年。そのほとんどを不死身で過ごしたのだ。
まさか、自分自身に回復しない傷を付けられるとは思ってもみなかった。
運悪く、クラノスケの剣が首に当たっていたらと思うとゾッとする。
マサムネは、全ての歯が抜けたシャー・カーンをつかみ、放り投げる。
宙を舞ったシャー・カーンはすぐに地面に落ち、床をスベッていく。
摩擦熱で、小さな火花を散らしながら、やがて壁にぶつかり止まった。
「ふぃー大漁、大漁」
宝石と金歯を竜のパンツに入れていく。
どうやら、竜の口の中が異次元収納になっているらしく、
そこにアイテムをほぼ無限に入れることができる。
食料品なども、鮮度を保ったまま保存されるので、
冷蔵庫いらずの便利アイテムだ。
手に入れるには、最強のドラゴンに認めなければならない。
それはさておき、
一仕事終えたマサムネは、顔を両手で叩き、気合いを入れて、
目の前の白い全身タイツの男を見据える。
「クククどうした変態、顔が青ざめているぞ。
アイアンメイデンの傷は治ったのに、
我が上昇志向の傷は癒えないようだな。
怖いか?不死身の変態よ。
それが恐怖だ。これからもっと味わわせてやろう」
剣についた血を振り払うと、
クラノスケはニヤリとして、マサムネに斬りかかる。
右薙ぎの斬撃をマサムネは、バックステップでかわす。
それを見越して、クラノスケの二撃目、刺突が襲う。
これもマサムネはギリギリで左に避ける。
(あの剣に切られると回復しないのか・・・厄介だな。
白刃取りは憧れるけど、それで顔面真っ二つは笑えねえ)
丸腰というより、ほぼ全裸のマサムネは防戦一方だ。
容赦なく、クラノスケの逆風の太刀が襲いかかる。
「斧よ、こい!!」
空高く右手をかざしてマサムネは叫ぶ。
しかし何も起こらなかった。
最高のカッコいいポーズをとってもおかまいなし。
クラノスケの下から斬り上げられた斬撃を、すぐさまマサムネはかわす。
「ふははは、なんだそのポーズは。そんなことしても無駄だぜ。
空から斧なんて飛んでくるワケないだろう。
大体、斧なんて山賊の武器だろうがよ。
野蛮な全裸男には似合いの武器だな。はははは。
トドメだ、半分になれええええ」
聞いたこともないダサい掛け声とともに、
クラノスケは剣を振り上げて、マサムネにトドメの一撃を振りおろそうとする。
そのとき、床を突き破り、すごい勢いで斧が飛び出してきた。
斧の柄は、進行方向にたまたまあった、クラノスケの後頭部に勢い良くぶつかる。
鈍い音の後、クラノスケはゆっくりと前方に倒れ、気絶した。