第五十八話 全身タイツは考える
クラノスケ視点
(なんだ、あの変態は・・・本当に人間なのか・・・感情はあるのか・・・)
シャー・カーンに馬乗りになるマサムネを見て、クラノスケはどん引きしている。
あんなにも欲望に忠実な者がいるとは思わなかった。
宝石を奪っている合間にも一瞬でビビの後ろに「縮地」して髪の毛の匂いをかいでいる。
(・・・恐ろしい男だ。そう・・・おれは、あの男に畏れを抱いている。
身体が思う通りに動かないのだ。シャー・カーンの見た目はスゴく嫌いだ。
あんな金歯を見せびらかす成金野郎なんて、下品すぎる。そんな相手だが、
おれが、ユニバースで一定の地位を築けたのは、5年前の出会いからだ。
賢者スノウとシャー・カーンに会えたおかげだ。その点は感謝している。
スノウも何を考えているのかわからない油断ならない存在だ。
だが、利用価値はまだまだある。今は仲間のフリをしている方が得策だ。
シャー・カーンもそうだ。アイツが魔族との橋渡し役になるのだ。
あんな全裸の変態にむざむざ殺されては困る。
だが、何故だ。おれの身体よ。動け!動け!動け!
おれは、王国の特務部隊の将軍なのだぞ。
この5年間、死にかけることなぞなかったが、それなりに特訓はした。
強くなる努力はしたのだ。
魔法のセンスがあったので、光魔法の上位を覚えるまで成長できた。
今なら5年前敗北したドラゴンにさえ肉薄できるかもしれん・・・。
これが、クラノスケリベンジだ!!
何を考えているのだ・・・おれは・・・集中しろ。ドラゴンなぞ今はおらぬ。
今は目の前の全裸男をどうするかだ。しかし、なぜコイツは全裸なのだ。
だんだんヤツの格好を見ていると腹が立ってきたぞ。
股間が忌々しい竜のレリーフだからだろうか。
なんでアイツは竜のパンツを履いているんだ。
金属でできたパンツを履くなんて、修行しているのか?
重いものつけて生活して、いざとなったらパージするアレか。
今時そんな修行古いんだよ。もうNARUTOでやってたぐらいだろう。
そういえば、魔法神からメッセージが来ていたんだった。
『あのアイアンメイデンの中身は殺せ、絶対に絶対に絶対にだ。
頼む、お願いします。神が珍しく祈ってますよーだ』
えらく、必死だな・・・。アイツは神をも畏れさせる存在なのだろうか。
魔法神を怒らせると厄介だ。おれの家族が危ない。
ならば奇襲・・・しかないな、我が愛剣、上昇志向の露にしてやろう。
ヤツの後ろからなら大丈夫だ。アイツが振りむく前に首を飛ばしてやる。
だから、おれの身体よ。畏れるな。恐怖を克服して、前に進め。)
この間、0.6秒
クラノスケは、抜刀していた剣を振り、シャー・カーンに跨がっているマサムネを斬りつける。
マサムネの首からは、ズレ、右肩から腰に向かって一直線に刀傷が入った!
「痛えなあ・・・俺が不死身だから、良かったものを・・・。
急に斬りつけてくるヤツがあるか!これくらいの傷なら、すぐ治るけどな・・・
あれ?背中の痛みがひかねえぞ。傷が・・・傷が治らねぇ」