第五十六話 器具の中のマサムネ
その場にいる全員が唖然として扉の方を見ている。
アイアンメイデン。
聖母を象ったともいわれている金属でできた人形である。
2メートルほどの高さがあり、中は空洞となっているため、
人間を中に入れることができる。
なんのために。
拷問をするためだ。人形の内側は、無数の棘があり中に入れる人を穴だらけにするのだ。
使用後は、大量の血が吹き出すため、金属の上に血の色が上塗りされていく。
そんな拷問危惧の中にいったい誰が入れられたのだろうか。
ゼノンはその場に膝から崩れ落ちた。
(捕まりそうなヤツなんて一人しかいない。マサムネだ。
竜を倒したとアイツは言っていた。腕にはかなり自信があったのだろう。
だが、城中の兵士を、たった独りで相手取れば、その力も無力だったのかもしれない。
なんてことだ。せっかく気のいい仲間ができたと思っていたのに
あんな拷問危惧の中に入れられたら絶命するしかないじゃないか)
ゼノンはそのまま床に突っ伏し、嗚咽を上げて泣いた。
ビビはゼノンへと悲しい眼差しを向けている。
「戦意喪失というワケですな、いやあ、急に衛兵が来た時は驚きましたが、
労せずにすみましたな。ハッハッハ」
シャー・カーンは、金歯をむき出しにしてクラノスケに話しかけた。
そのとき、クラノスケの腰のあたりが少し揺れる。
同時に、全身タイツの中に手を入れてゴソゴソしだした。
股間の膨らみから何かを握って腕を抜く。
翠色の石を股間に入れていたようだ。
石を見た途端、クラノスケの表情が険しくなる。
何かの合図だろうか。
そのとき、4人の兵士に囲まれたアイアンメイデンがガタガタと揺れだす。
中にいる人物が暴れているかのようだ。
「ハッハッハ、痛みで侵入者が暴れておるぞ。おまえら、しっかり抑えぬか」
シャー・カーンは、アイアンメイデンを運んできた兵士に指示をとばす。
ゼノンは顔を上げ、目の前の拷問危惧に叫んだ。
「マサムネ、生きているのか!!マサムネええ!!」
「あ た り ま え だ」
アイアンメイデンにある前面の扉が吹き飛び、中から全裸の男が現れた。