第四十七話 竜と全裸
下層から壁が壊れるような音が聞こえる。
音はだんだんと大きくなって、竜のいる地下30階層に近づいてくる。
バゴゥ!
部屋中に響き渡る音と共に、地下から全裸の男が飛び出してきた。
「イテテテ、服そのまま置いてきてしまった・・・」
全裸の男——マサムネは、全身を掻きむしりながらぼやいている。
荒れた地面で高速匍匐前進をしたものだから、血流が良くなり身体の正面が赤く染まっている。
「痒いな・・・お、お前が竜だな。恨みはないが滅ぼしてやる!」
脇から二の腕、さらに腰をボリボリと掻きむしりながらマサムネは臨戦態勢をとる。
竜に対して恨みはない。ファンタジー世界のシンボルとしての憧れもある。
だが、それにも増してマサムネは魔法が使いたかった。その欲の前には、竜の首はやむをえない。
マサムネの身体から殺意がほとばしる。
あまりのプレッシャーに、静観していた竜も身構える。
(なんだ、この圧力は・・・。人間なのに化物じみているぞ・・・。対話を望んでいたのだが仕方ない。少し嚇かしてやるか)
竜もマサムネに負けじと吠えた。クラノスケたちがそうであったように、並の人間ならば、そのあまりの重圧にひれ伏してしまう。
「うお、なんだ?急に重くなった・・・。負けねえぞ!!」
だが、マサムネには軽度の負荷しか感じていない。ユグドラシルの森での生活でマサムネの筋力は鍛えられている。体は修行の成果の賜物。心が折れないのは、単に鈍感だからだ。
マサムネは竜の圧力を跳ね返すように地面を強く蹴る。
一気に竜の腹の下まで距離を詰める。
「あいさつがわりだ!!」
竜の下腹に掌を打ち込む。
ただの一度も攻撃を通さなかった強靭な皮膚が大きく揺れる。
「ぐふぁ」
その場に竜が横転する。
運命神に創造されて幾星霜、生まれて初めて痛みを知る。
(なんだコイツは・・・。人間なのに、膂力がダンチではないか)
竜は起き上がり、大きく口を開けてチカラを溜める。
生物を塵に変える反重力破壊砲だ。
(仲良くなりたかったのに・・・残念だ)
寂寥感を振り払い、竜はマサムネにブレスを放つ。
「はんっ!!定番のブレスってわけか!!そんなもの俺にはちっとも効かないぜ!!」
マサムネは両手を腰に当てて、竜の正面に仁王立ちになって立ちふさがる。
伝説の武器を使うわけでもない。避けるわけでもない。ただ一つの体で、強い意志で竜のブレスを受け止める気だ。言うまでもないが、全裸である。
(な、なにぃ、そんなにも余裕で、ワシのブレスを受け止めるというのか・・・心なしかヤツの後ろに後光が射している・・・これが選ばれし者のチカラなのか・・・)
竜から放たれた破壊の閃光はマサムネを包み込む。そしてそのまま塵となった。