第四十六話 ダンジョンの下層で行なわれる匍匐前進
「ここはどこだ?」
マサムネは、嘆きの遺跡最下層30階層をぶちぬき、さらに下の階層まで落ちていた。
マサムネは、大の字で床に寝そべる。
岩肌はゴツゴツしていたが、冷たくて気持ちいい。
(途中、竜がいたな。少し休憩したら戻ろう)
天井を見つめてみる。暗くて何も見えない。
(暗いな。どうせ暗闇なら服を脱ぐか。この床の冷たさを直接肌で感じたい)
おもむろにマサムネは服を脱ぎだす。
脱いだ服は散らかさずにキチンと畳む。
誰も見ていないとはいえ、当たり前のことをバカみたいにちゃんとする。それがマサムネの流儀だ。
服を畳み、洞窟の中心で全裸の男は正座する。
「でりゃああああ」
かけ声とともに、マサムネは再び床に大の字で寝そべる。
マサムネの叫びは、反響していく。
まるで風呂場にいるみたいだ。
(よし、歌うか)
「きみがいーまー僕を支えてー僕がいーまー君を支えるー」
マサムネが地球にいた時に好きな歌だった。
昔流行った囲碁アニメのオープ二ング曲で、女性ボーカルグループが歌っていた。
ボーカルが女性、さらに高音域の曲であるのだが、マサムネはこの空間の反響を利用して完璧に歌い上げた。
「君は本当に面白いね。これから竜と戦うっていうのに歌ってさ」
聞き覚えのある声だった。
「その声・・・運命神か?」
マサムネは周囲を見渡す。相変わらず暗闇のままだ。人の気配すらない。
だが声は聞こえる。
「そうだよ、5年ぶりだね。実はこの遺跡自体が私の管轄なのだよ。見ているだけにしようと思ったのだが、マサムネ。お主がいるのは私の部屋の真上だ。お願いだからうつ伏せにはならないでおくれよ。頑丈な壁があるとはいえ、そのおいなりさんをこちらに向けられるとゾッとするぞ」
マサムネはニヤリと笑って、うつ伏せになりその場で匍匐前進を始めた。
前に進んではそのまま後ろへ下がる、後ろに下がると見せかけて前に下がる。
この繰り返しだ。摩擦でマサムネの身体が熱を帯びる。
(ここからさらにスピードを上げると火を起こせるかもしれない。顔の皮脂と斧で火がついたんだ。きっと俺の身体でもできるハズ。燃えろマイボディ&ソウル!!)
マサムネのテンションが最高潮に至ったその時、床から衝撃波が放たれ、マサムネは上層へと吹き飛んでいった。