第四十四話 半牛半人VS変態
ミノタウロスは恐怖している。
魔物にも感情はあるのだ。
侵入者が部屋に入ると、魔法陣より召喚される。
冒険者を倒せたら、魔法陣より待機所へ送られる。
自分が倒されたら記憶を失って、待機所へ送られる。
そして、新たな侵入者を迎え撃つべく魔法陣から再度召喚される。
そんな命令をダンジョン制作者に命じられていた。
記憶を失うとはいえ、こんな感情は初めてだ。
震えが止まらない。これほど恐怖を感じたことは今までなかった。
なんなのだ、彼奴は・・・。
ボス部屋のシャッターが急に閉まると、ベテラン冒険者でさえ、緊張感が高まる状況だ。初心者冒険者なんて失禁する者だっている。
なんだアイツは、笑っているじゃないか。緊張感のかけらもない。
ましてや落ちてくるシャッターをかわして蹴りまで入れるヤツは初めてだ。
ネジが外れているとしか思えない。
だが、逃げてはならない。敵がどれほど強大であれ、自分には戦うしか道はないのだ。
「ぐおおおおおおお 」
ミノタウロスは自分を鼓舞するかのごとく咆哮する。
そして、目の前の敵を迎え撃つべく、手に持っていた戦斧を振り上げる。
全長4メートルの化物が、大きな斧を振り下ろす。
初心者冒険者ならば腰をぬかし、震えがとまらない光景だ。
だが、目の前の敵は笑って・・・?!
ミノタウロスが、マサムネを見失った瞬間、意識はそこで途絶えた。
「この頭カッコいいな、中身をくりぬいたらお面にできないかな」
マサムネは、ミノタウロスの頭を持ちながらつぶやいた。
一瞬だった。ミノタウロスが雄叫びを上げながら斧を振り上げる。
隙しかない状態だったので、マサムネは縮地で距離を詰め、ミノタウロスの首を手刀で落とした。首のない胴体は、静かに後ろへと倒れていく。
「しかし、この部屋は臭いな。何かが燃えているような匂いがするな。うん?あのオブジェはなんだ?」
マサムネは、部屋の隅に立てかけられたレリーフを見つけた。
魔族の男がモチーフになっているのかもしれない。耳が尖っている。
かなり悲しげな表情だ。
マサムネは昔見た漫画を思い出していた。
(たしか、魔人がチョコになっちゃえーって言いながら人をチョコに変えていたっけな・・・懐かしい。色が茶色だからチョコに見えなくもないな・・・)
マサムネはレリーフの顔の部分を舐め回してみた。もちろん甘い味なんかしない。
表面はザラザラしていて、土と埃が混じり合ったような味がした。