第四十二話 賢者と愚者
「むむ、なんだ?おれは今、忙しいんだよ」
タライを持ちながらマサムネは文句を言う。
どうやら、先ほどの罠を全てタライでなんとかしようとしていたのだ。
「急に呼び止めてすみません、私はスノウ。旅の賢者をしております」
蒼いローブの青年は笑顔でそう言った。目尻の皺が優しそうな雰囲気を醸し出している。
「賢者って、自分で言うタイプか。おれ、自分で毒舌ですって言うタイプと一緒でなんか好かんのよな。結局、それほど賢くないだろう?何か用か?」
「はい、その様子ではかなり魔法神に嫌われているようなので、お手伝いと思いまして。
その結界・・・私が解いてさしあげましょうか?」
「・・・いらん、突風さえ回避できれば、あとはなんとかなりそうだ」
「ふふふ、器物を破壊したりすると魔法神の印象も悪いですよ。ボロボロの服だと見た目も悪いですし。あとマサムネさん、あなたはもっとスマートに物事を進めるべきだ。その方が良い時もある。賢者のナイスアドバイスですよ」
「ぐ・・・まあ一理あるな。で、タダで結界を解いてくれるってんじゃないんだろ?何をすればいいんだ? 」
「察しがいいですね。実はここから南西に行くと『嘆きの遺跡』というダンジョンがあります。そこを踏破していただきたいのです。ボスはなかなか強いですが、マサムネさんなら、楽勝だと思われます」
「ダンジョンか・・・いいな。おれ、ユニバースに来たら冒険者らしいことがしたかったんだ。ボスの首でも持って帰ってくればいいか?」
マサムネは急にテンションが上がった。特に急ぐ旅ではないのだ。どうせならば楽しく思えることをやろう。
「良い返事が貰えて嬉しいです。では、ご検討をお祈りします。無事踏破するころには、この結界を解いておきますので」
「ああ、わかった。ではまた後で!」
マサムネは、振り向いて、元来た道を引き返す。すると、
「そうそう、賢者というのは、賢いってだけの意味ではないですよ。地球では違う意味の賢者って居たでしょう? 」
マサムネが振り向くと、スノウの姿はなかった。