第三十九話 流れるような嘘
クラノスケは気づくと遺跡の入口にいた。
ビビは受付でうずくまっている。
どうやら二人とも地上に戻ってきたようだ。
「クラノスケ・・・・他の二人は? 」
「・・・・エステルは先に行けと言って転移石をおれにくれた。
あとで行くと言っていたから・・・きっとくると思う・・・」
嘘をついた。
真実はエステルに見捨てられそうになったから、怖くなって奪い取った。
もしかしたらエステルはあと何個か転移石を持っているかもしれない。
戻ってきたら嘘がバレる。ビビにもエステルにも軽蔑されるかもしれない。
転移直前に見たゼノンの悲しい顔が胸に刺さる。
だが、死ぬよりはマシだ。妻と子どもになんとしても会いたかった。
「そう、なんだ・・・。じゃあ・・・待つわ・・・」
そのまま、ビビは何も話さなくなった。
その後、日が暮れるまで二人を待ったが、ゼノンとエステルは戻ってこなかった。
「まだ、待ってるのか? 」
二人を見かねて受付の男が話かけてきた。
「ちょっとスキルカード見せてもらうぜ。おお、初めての探索でミノタウロスを倒したのか!最速記録じゃねえか! 」
男は持っている機械にカードを通すと、文字がホログラムであらわれた。
スキルカードには探索記録も残るみたいだ。
「すごくないよ。ミノタウロスを倒した後、10階層に竜が出たんだ・・・。全く歯が立たなくて、俺たちだけ転移石で戻ってきたんだ・・・ 」
「竜・・・今まで10階層に現れた報告はなかったんだがなあ・・・。
でも、あんちゃんの様子じゃ嘘をついてるようには見えねえし・・・。
わかった、もしアンタのツレが戻ってきたら連絡してやるよ!とりあえず、今日は宿で休みな!なんか食わねえと死んじまうぞ 」
男の提案で、クラノスケとビビは遺跡近くの宿に泊まることにした。
もちろん別々の部屋をとったので、入室してからはビビと会っていない。
それから一週間が過ぎた!
コンコン、ドアがノックされる。
「クラノスケさん、宿の店主です、お時間よろしいですか?お客様です 」
「はい、大丈夫です。お客様?知り合いかな? 」
心臓の鼓動が速くなる。もしかしたらエステルが帰ってきて、怒鳴りこみに来たのかもしれない。
怒られるのはいやだが、生きていることは嬉しい。複雑だ。
「いえ、王室の賢者様です」