第三十一話 カレーとの邂逅
こんばんは。
「急に何かが、光ったと思ったら、目がーめがあああああ」
ここは、王都レオンガルドの繁華街。多数の種族が住む街だ。
そんな華やかな街が地獄と化していた。
とある宿屋を中心に人々は顔をおさえ、うずくまっている。
エルフも獣人もドワーフも関係ない。
あの光を見た一般人は残念ながら全員失明だ。
本当に残念としか言いようがない。
そんな賑やかな王都にあるおすすめ宿「馴鹿亭」
そこに騒動の原因となる人物はいた。
「すいません、大人1名で、一週間程度宿泊します。
出来るだけフカフカのベッドがいいです。よろしくお願いします。
できればお風呂かシャワー付きの部屋がいいです 」
クラノスケはチェックインをすませていた。料金は、クロエからお礼ということで、
10万バースもらっている。お礼ならば仕方ないのだ。ちなみに、1バース=1円だ。
階段をのぼり、3階の角部屋をクラノスケはとった。
日当り良く、窓からレオンガルドを行き交う人々が良く見える。
うずくまったもの、泣き叫んでいるもの、人がゴミのようだ。
だがクラノスケは動じない。ユニバースのことなどどうでもいいのだ。
クラノスケは、ベッドに腰掛けて考える。
平静を装っているが、クラノスケの内心は穏やかではない。
神フォンが光ったのだ。
光自体は服の中にいれたらすぐおさまったのだが、そんなものは些細なこと。
他の選定者がいる。武神か運命神のどちらかに選ばれた転移者が。
もっと遭遇するのは後の話だと、クラノスケは勝手に思い込んでいた。
だが現実は思い通りにはいかない。敵は近くにいたのだ。
神フォンを服の中にしまった後、辺りを見回したが、それらしい人物はいなかった。
相手も神フォン持ちなら同じように光るハズだ。最初から布でも巻いていたのだろうか。
アレだけの光量だとこちらは見られた可能性がある。
たしか、転移者は光を見ても失明しない。確認後、隠れて様子を伺っていたかもしれない。
クラノスケは、悩んだ末、考えることをやめた。
結論もでないことだ。悩んでいる時間がもったいない。
それよりも、飯・・・の前に、光の設定だけ変えておこう。
魔法神に神フォンのマナーモードみたいな設定がないか、メッセージを送っておいた。
ピロリン
送信後、10秒で返事がきた。
『余裕でできるよ。振動する設定にする?』
『よろしくお願いします』
ピロリン
『了解道中膝栗毛』
魔法神は、なぜかギャル語を使っていた。ババア無理すんな。
つか、バイブ機能あるなら、最初から言え。
▼▼▼▼
食堂にて
「うお、カレーうま! 」
馴鹿亭おすすめのグルンカリーとは、グリーンカレーのことだった。
グルンとは、地球でのグリーンのことなのだろうか。しかし味はピカイチだ。
少し固い米と辛めのルーが舌を刺激する。だがそれがいい。
さらに、数種類の香辛料の香りと肉が絡み合う。トロトロの肉が口の中で溶けていく。
これは、豚肉だろうか?馴鹿亭というぐらいだから、トナカイの肉だろうか。
嬉々として、店主に尋ねてみた。
「そいつは、ゴブリンの肉さ、兄ちゃんが食べているのは太ももの部分。美味しいだろ?ゴブリンは種類によっては、反復横跳びが得意な個体がいる。そういうのは、肉が引き締まっていて旨いんだぜ。兄ちゃんラッキーだったな。数日前に大量のゴブリン肉が入荷したんだぜ。ガハハハハ 」
ガハハハハではない。数日前に涎を垂らしながら、カバディをしているゴブリンを
撲殺してきたのだ。吞気にボーノ!とホザくわけにはいかない。うん、吐きそう。
しかし味は絶品だ。クラノスケは、左手を額に当てながらカリーを食べた。
そう、今のおれはマインドアサシン。記憶を消せる孤独な殺し屋さ。
とそんな戯れ言は、気晴らしにもならなかったが、
味に関していえば、異世界初の食事は充分満足のいくものだった。
▼▼▼▼
馴鹿亭の向かいにある建物ーその屋上にて
「神フォンを光る状態にしているバカ本当にいたんだ。直接見ないで良かったわ」
「どうする?ここからなら弓で狙えることもないんだけれど」
「まだ早くない?せっかく同郷の人に会えたんだし、まあまあかっこ良かったわよ。
黒髪で黒目。ユニバースでは珍しいわよ。私はとても興味があるわ。
なんなら一緒に冒険なんかしちゃったりして 」
「そんなリスクは負わないわよ。もう一度言うわ。そんなリスクは負わない」
月がとても綺麗な夜だった。
お読みいただきありがとうございます。
もしかしたら、次回は新キャラの予感。油断できないぜ。