第三話 フライ!フォーリング!ダイ!
風がつよく吹いている。ものすごい音だ。
目が覚めた、というよりは、突風に叩き起こされた感覚だ。
歯茎がむき出しになるぐらいマサムネの顔を風がぶん殴っている。
脳が空中に放り出されたと認識するのに時間はかからなかった。そして、
「 落ちているうううううううう 」
そう、上空何万メートルかは定かではないが、マサムネは空から地上に向けて順調に落ちている。
ゲームの世界だったら、このまま地上に落ちても、傷一つないだろう。
だが、今はリアル。ファンタジーの世界とはいえ、死ぬ可能性は充分ある。
いきなりの死。そんな馬鹿な。なんてこった。急にマサムネの心拍数が上がる。急に呼吸ができなくなってきた。マサムネの意識が遠のいていく・・・。
どれくらい気を失っていただろうか。マサムネは確かに一瞬気を失っていた。
テレビで見たことがある。飛行機事故で上空で投げ出された人は、程なくして低酸素症を発症して意識を失うという。
そのまま人形のように落ちていく。
程なくすると、空気中の酸素量呼吸に充分な量に戻るので回復するとのこと。
(よし、気を失ったまま死ぬよりかは策を弄することができる。考えろ、運命神だぞ。
異世界転移して、そのまま殺す。そんな無慈悲なことをするわけがない。しかしこれが俗にいう「神々の遊び」なのだろうか。いいや、あきらめてはダメだ。何か手がある筈だ。エレベーターの落下なんかの場合は、地面にぶつかる瞬間に軽くジャンプすれば助かる。・・・・ダメだダメだ。今回は何も乗っていない。生身だ)
マサムネは、全身に意識を集中する。
(手足はある。だが、動かせない。身体の周りには大気しかない)
支えがないということがこれほどまでに不安な気持ちになるとは思わなかった。
幸いにして、地面に対してうつ伏せの体勢で落ちている。
スカイダイビングのように両手を広げる。そうすれば地面に落ちた時に衝撃が分散される・・・ハズ。
マサムネは、両手両足を伸ばすように意識する。力は通わせている。
だが、手足が伸びているかは半信半疑だ。
恐怖なのかなんなのか、身体の自由がきかない。
(あきらめるな。できるだけ身体を広げて、受け身をとる。こんなんで本当に大丈夫なんだろうか・・・他に作戦も思いつかないのだから、やってみるさ)
この間、0.6秒。
マサムネは、考えているウチに森林地帯に墜落した。
「ぐがががぎぼごごごごご」
葉っぱが口の中に入り、枝で体中を切り裂かれ、傷だらけのままマサムネは地上に落下した。
木にぶつかった衝撃で身体の向きが変わり、天を仰ぐ形で地面に激突する。
背中を強く打ったようで、息ができない。身体中が痛い。足も変な方向に曲がっている。
(・・・こんなにもボロボロなのに、どうして意識があるのだろう。気絶していれば、痛みも感じなくてすんだのに・・・。ああ、痛い、激痛だ。身体の感覚が全くない。内臓も潰れて、骨も粉々なのだろうな。
異世界転移ってだけでテンション上がっていたらこれですよ。ファンタジーの世界へ行けば、何もかも良くなるだなんて、虫のいい話だ。結局努力しないものは、何も得られないし、変われないのだ。
これだけの代償を払ってやっとわかるなんて、なんて馬鹿野郎だ・・・。
ああ、もっと生きたかったな・・・死ぬ・・・死ぬよな。
だって身体動かないし、こんな森の真ん中で助けなんか来ないだろうし・・・。
よしんば助けが来たとて、この怪我は治癒不能なんじゃないのか・・・。
かなりの回復魔力が必要だと思う。そんな聖女に出会える可能性ですらマレなのに・・・。
ドラ○エの世界樹の葉でもあれば別だけれども・・・。
ああ、身体が熱くなってきた。脳の温度調整する機能が壊れてきたのかな。
そのうち寒くなって意識が遠のくだろう・・・。さらば、お父さん、お母さん・・・もっと親孝行すれば良かったな。結局、実家にもほとんど帰らなかったし。孫の顔も見せてやれなかった・・・。
死にたくないよぉ・・・・・・・ああ・・・熱い・・・熱い・・・熱い、痛い、そして痒い熱い・・・痒い、熱いいい、痒いい)
「うわああああああああああああああああああああああああ」
マサムネは突然のやってきた快感に思わず声を上げてしまった。
(何だかぎもぢいいい、これが天に召される感覚なのか。
天から舞い降りてきて、すぐ召されるってバカなの?
なんだろう、なんだか痛みも、うっすら引いてきたぞ・・・。
なんだ?うん?折れていた足に感覚が蘇ってくる。治っていっている?
動くぞ。回復していっているだと・・・。
夢じゃないよな。生きていいのか!生きていいのか!!)
なんとマサムネは、死にかけの身体から一変、完全回復した!!
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