第二十八話 ネガティブ思考とナルシスト
「ふがふがふが」
ストーンバレットで、ゴブリンは全滅したが、
もう一匹・・・皮膚が紫の男は石を咥えて悶えていた。
クラノスケは男に近づき、石が取れるようにトントンと背中を押した。
「ぶふぁぁー死ぬかと思った!!・・・・オイラのこと助けてくれたのかい?」
紫の皮膚の男の話す言葉がわかる。これも転移特典なのか。
「助けたことになるのかな。まあ、平気そうならいいや。
ところで君はこの森で何をしていたんだい?」
クラノスケは男に尋ねた。
「ゴブリンを狩ってレベル上げをしようとしたんだ。
1匹見つけたから、後ろから殴ろうとして・・・。
1匹なぐったらソイツも倒せなくて・・・。
気づいたら・・・茂みからいっぱいゴブリンが出てきて・・・
羽交い締めにされた・・・本当に怖かった・・・・ぐおーん」
泣き方も不細工なヤツだと思ったクラノスケだったが、
こんなヤツでも異世界で初めて意思の疎通ができた男だ。
知らない国の人と意思が通じるとテンションが上がる。
昔、アジア圏をバックパッカーしていた頃のような喜びが、湧いてきたのである。
「僕の名前はクラノスケと言います。良ければ君の名前を教えてくれるかい」
「・・・・ぜ、ゼノン」
泣きながら男はゼノンと答えた。
「ゼノンか、カッコいい名前じゃないか。これから君はどうする?
良ければ一緒にレベル上げしないか?僕も強くなりたいんだ」
異世界という知らない土地でさらに魔法を使える全能感からかクラノスケは、
気が大きくなっていた。その余裕からゼノンに何か協力したいと思った。
「・・・いいのか・・・オイラ何もできない・・・。みんなから、
グズ木偶の坊ゲロ野郎って言われる・・・悔しい・・・
強くなりたい・・・・見返したい・・・・ぐおーん」
と言いながら、ゼノンはまた泣き続ける。
「得意なことはあるのかい?魔法が使えるとか」
「魔法・・・遠距離魔法・・・・闇属性・・・・」
「闇属性!!すごいじゃないか、一度みせてくれよ!!」
「わかった・・・デッドリーヘル!」
魔法詠唱が終わると同時にゼノンの手の平から圧縮された闇の波動が現れた。
しかし、
闇の波動は、ゼノンの前方には飛んでいかず、手の平に留まり20秒くらいで消えた。
「まだ、レベルが低いから・・・前に飛ばない・・・父上なら地平線の向こうまで飛ばせる。
だから・・・オイラ・・・グズ木偶の坊ゲロ野郎って言われる・・・グオーン」
またまたゼノンは泣きだしてしまった。
コイツはなんてダメなヤツなんだ。不細工な顔だし、とクラノスケは思った。
足手まといは連れていかない方がいいのだが、
クラノスケはダメなヤツを助けている俺カッコいいとか思うタイプのナルシストだったのだ。
「ダメじゃないよ、ゼノン。最初は共にいてくれるだけでいい。そうしたらレベルが上がるかもしれない。魔法が飛ばせるようになったら、ゼノンが助けてくれよ」
最高に懐広いなおれ・・・とクラノスケは思った。もうギンギンだった。
「クラノスケ・・・ありがとう。オイラ・・・嬉しい」
二人に奇妙な友情が芽生えそうな瞬間ーー
「キャアアーーー」
女性の悲鳴らしき声が聞こえた。




