第二十六話 クラノスケの場合
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「はぁあああん、良い匂い!」
クラノスケは目覚めた。
ここは、どこだ?
クラノスケは意識を失う前のことを思い出す。
おれは鶴城クラノスケ。
会社員をしている。確か、職場の後輩を自宅に呼んでたこ焼きパーティをしたんだ。
で、後輩たちが帰ったあとに、妻の房江から、
「赤ちゃんができた」って言われた。
ものすごい幸せな気分だった。嬉しくて嬉しくて、残っていたお酒を飲んで、リビングでそのまま寝てしまったのだ。
しかし、ここは、どこだ。
暗い・・・辺り一面どこを見渡しても暗い。
一つ言えるのは、ここはリビングではない。
知らない所だ。だが、女子が使っているシャンプーのような良い匂いがする。
「目が覚めたのね、グッドルッキング」
声が聞こえた、艶のある女性の声・・・。人だ。日本語だ。
クラノスケは声のする方に視線を向けた。
すると、小さな火の玉が灯り、暗闇に道ができた。
「少し、話をしましょう。グッドルッキング。
こちらへいらして」
クラノスケは、声に従い、灯りが示す道を進んだ。
20メートルぐらい進んだだろうか、
暗闇の奥に一人の女性が立っていた。
歳は・・・考えるな失礼だ。
しかし、今まで会ったことないくらい綺麗な人だ。
房江もきれいだが、それとはベクトルが違う魅力だ。
目の前の女性は、ニコリと微笑みそしてクラノスケに語りだした。
「我の名は、アレクシア・グッドローズ。
魔法を司る神をしている。グッドルッキング、
いや、クラノスケ、あなたは神に選ばれたのです。
選定者クラノスケ、
あなたは、これから異世界へ転移してもらいます。
そこで、あと2人の選定者と戦ってもらうわ。
どちらも、我と同じ神に選ばれた存在。
その2人を殺すの。そうすればどんな願いも叶う」
「勝手に変な世界に連れてきて、殺し合いをしろだって、
やるわけないだろう。
断ったらどうする?今すぐ、殺すか?」
クラノスケは、虚勢を張った。死ぬのはもちろん怖い。
だが、素直に人殺しをする気にもなれなかった。
「もちろん、殺すわ。でも、あなたは最後。
最初は、あなたの子どもね。
子どもが死んだら奥さんに殺した理由を話す。
旦那が神のお告げに背いたって、
どんな顔するかしらね。絶望を与えてから殺すわ。
それを我の気がすむまで繰り返す」
「ど、どうして俺なんだ?ただのサラリーマンだぞ?」
「カンタンなことよ。あなたには、秘めたるチカラがある。
それに見た目がタイプ。そんな所よ。
我も他の神には負けたくない。
だからやれるだけのことは全てやるつもりよ」
そう言いながら、アレクシアはクラノスケの頭に手を当てた。
青白い光でクラノスケを温めているような光景だ。
「今、我の加護を与えた。成長速度20倍と、
全属性魔法が使える。さらにこの剣も与えるわ。
大サービスよ」
女神が異空間から剣を取り出した。
その剣は、太陽を直視するぐらい眩い光を放っている。
クラノスケは、剣の柄を握りしめた。ダイヤのような宝石が散りばめられている。
「この剣はクラウソラス。ユニバースという世界ができて3000年目に生まれた剣よ。ミレニアム・アームズといって、持ち主の心に呼応して強くなる武器なの。
剣を振ったことない者でも使えるわ。柄を握って戦う姿をイメージするの。
パワプロのオートモードみたいに勝手に動くわ。経験値は下がるけど、あなたには問題ないわよ」
「この剣、すごいカッコいいな。名前を変えてもいいのか?」
剣を見てクラノスケのテンションが上がった。
「いいわよ。好きに変えるがいいわ。それで感情移入しやすいならね。
あと、これがとても大切。他の選定者を見つける為に必要なモノよ」
女神は翠色の石をクラノスケに渡した。
「それは神フォン。他の選定者が近くにいたら、光るわ。
それで選定者を探しなさい。選定者以外がその光を見ると失明するから気をつけてね。
あと、メールも送れるから、わからないことがあったら送ってきて。石を握って念じれば送れるから・・・。我からも送るから既読スルーはしないで」
至れり尽くせりだった。これで先に他の選定者を見つけることができたら奇襲をすることも可能だ。
攻撃もオートみたいだし。負ける要素がなかった。断ったら家族も殺される。ならば、知らない選定者のことはこの際、諦めよう・・・,やるしかない、やるしかないのだから。
「わかった。選定者殺しの件、引き受けよう。成功したら、必ず元の世界へ戻してくれ」
「ふふふ、良かったわ。では、これからユニバースに転移させます。
転移先は、ユグドラシルの森という場所よ。万が一傷ついたら、そのへんの葉っぱを食べなさい。
たちまち回復するから。あとウサギを狩ると経験値がおいしいからオススメよ。
他に何か聞きたいことはあるかしら」
「魔法はどうやって使えばいいんだ?」
それからクラノスケは魔法神から魔法の手ほどきを48時間くらい受けた。
もちろん、食事と睡眠はとりながら。全属性の才能を引き出してもらったからか、スムーズに取得できたように感じた。
「よし、では行ってくる。神のご加護を祈ってくれ」
「我が神じゃ馬鹿者。充分加護はつけた。くれぐれも負けは許されぬぞ」
その台詞を最後にクラノスケの転移がはじまった。
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