第二十一話 不器用な男
おはようございます。
土曜日ですね。今日も1日よろしくお願いします。
「ぶぁああっくしょーーい」
特大のくしゃみでマサムネは目を覚ました。
「さむっ、なにこれ」
マサムネは、急いで部屋を飛びだそうとした、が
ドアが開かない。そして冷たい。ドアノブを握った手が離れなくなっている。
強引に引きはがすと皮がベロリとめくれた。
どうやら、部屋全体が凍っているようだ。
なぜかベッドだけが普段通り。
戦斧と一緒に眠ったからだろうか。
「まずいな。服も凍っていて着れないや」
マサムネは、全裸で眠るタイプだ。その方がリラックスできるからだ。
よって、服が凍った今、マサムネは全裸だ。
それはいい。
どの範囲まで凍っているのだろう。
マサムネの部屋のみか、それともギルド周辺か・・・。
最悪この街全体が凍っているかもしれない。
万が一に備えて、マサムネはアイムールの部屋へ向かった。
全裸で女性の部屋に行くと誰かに誤解されるおそれがある。
しかし、マサムネは気にしない。そこに迷いはなかった。
凍ったドアを体当たりしては壊し、体当たりしては壊し、
全身が霜焼けになりながらもマサムネはアイムールの部屋へ向かう。
「アイムール!!」
アイムールの部屋の前まで来たマサムネは、叫びながらドアに体当たりした。
が、氷は割れない。どうやら、この部屋の氷だけなぜかとびっきり分厚いみたいだ。
「アイムール!!アイムール!!返事をしてくれ!!」
マサムネは懸命にドアにぶつかった。
それでもドアは壊れない。中からアイムールの返事はない。無事なのか。
焦るマサムネ。まさにパニック状態。
乱心したマサムネは手に持っていた戦斧でドアを殴った。
いともカンタンにドアにひびが入り、壊すことができた。
アイムールはベッドの上で眠っていた。
だが、動かない。氷漬けになっていた。
マサムネは氷を叩いて割ろうとしたが、寸前で留まった。
壊してはダメだ、絶対に壊してはダメだ。
氷が砕けるとアイムールがバラバラになってしまう。
「なんとか氷を溶かさないと・・・。温めるか・・・・
炎・・くそ・・・俺に魔法が使えたら、こんな氷なんて・・」
マサムネは自分を呪った。まさか魔法を使えないことで、
大切な人を守れないなんて・・・。こんな絶望があっただろうか。
だがマサムネは諦めなかった。
身体を大きくひろげ、アイムールが入っている氷に抱きつき、上下左右に動き出した。
人間の体温と、摩擦熱。これでなんとか溶けないかと考えたのだ。
甘かった。氷は全く溶けなかった。
それでもマサムネは諦めない。
何か炎を出せるものはないか。そう思い、部屋中を見回す。
と、アイムールの机の上に手紙が置いてあった。
氷で濡れていてほとんど読めなかったが、最後の一文だけは読めた。
『大丈夫、マサムネならやれる』
こんな裸の男が一体、何をやれるというのだろう。
戦斧で殴れば、カンタンにドアを破壊できたのに、ずっと体当たりで身体中霜焼け、
魔法も使えず、思いつくアイデアは人肌で氷を溶かす・・そんなことしか思いつかない。
無力、無能、役立たず。
だが、アイムールはそんなマサムネを信じてくれた。次代のギルドマスターへのエールなのか、はたまた気が変わって魔法神に会いに行くことを許してくれたのか。
アイムールがマサムネに何を望んで、何をできると言ってくれているかはわからない。
だが、アイムールの言葉はマサムネの心に火をつけた。
「諦めるか、諦めるもんかああああ」
マサムネの咆哮と同時に戦斧が光輝く。
その光は天井を突き破り、空高く昇っていく。
まるで天から何か降りてくるかのような、
そんな神秘的な光景だった。
しかし、
「あそこか、リンのかたきぃい」
ギルドの周りでマサムネを探している女ーー
魔界九家が一人、ピョン・ブリザドリスに見つかった。
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