第百二十捌話 終戦
「古来より乾杯とは、杯を乾かすと書く・・・・かんぱああああああああああい」
宴の号令をだしたのは、リザードマンのトラムだ。
寡黙でクールなイメージだったが、今は各テーブルを回り、
酒を注いでは一気飲みコールをしている。
平時からこれまでずっと沈黙を貫き、先の戦いでも大した活躍もせず、
飲み会の時だけ元気になるタイプのようだ。
アクアジェラートにおける人間と魔族の戦いは、魔族側の最高戦力であるトウ・バレンシアを打倒したことで終結した。
王国宰相であるスノウ・ライトニングと魔族残党軍の中で九家当主であるゼン・ヴェルトの間で終戦協定が結ばれ、魔族軍のほとんどは撤退している。
負傷した魔族兵たちは、四季騎士が治癒魔法をかけたり、マサムネがツバで作ったポーションを飲ませたりした。
ちなみにポーションの製造方法は、相変わらず特急秘匿事項とされている。
負傷兵の治療を条件に魔族の国である無頼の鎖国解除を要請していた。
これから人間と魔族の交流が始まっていく。
戦直後なのでまだまだ種族間で上手くいかないことも多々あるだろう。しかしながら大きな一歩だ。
「人間と魔族、両方を知るオイラだからこそできることがあると思うんだ」
ゼノンは、そうマサムネたちに告げて、無頼へと帰っていった。
オドオドしていた頃のゼノンはもういない。人間と魔族、ゼノンの立場はちょうど真ん中だが表情は堂々としたものだ。
きっと素晴らしい橋渡し役になってくれるだろう。そう思えるくらい自信に満ちた表情であった。
「アタシは、お酒を呑み続けるわ。今までもこれからも」
ビビは、そう言いながら強めの酒を呷る。何が起きたって彼女は変わらない。
喜ばしいことに、飲み仲間が増えた。ドワーフにリザードマン、獣人だっている。
たまには武神とだって飲みたいそうだ。今度神フォンで連絡するらしい。
呑み仲間には内緒だが、気になる存在のオトコもできた。服を着ない変わった奴だが、とても雄を感じている。
いつか想いを伝えられたらいいなと思っている。
宴は夜遅くまで続いた。戦士たちは皆、戦の終わりを喜び、涙し、大いに湧いた。
皆が疲れて寝静まったころ、マサムネは一人を斧を担いで外へと出た。
「こっそり出発するなんて、つれないですよマサムネさん」
マサムネが振り返ると賢者スノウが一人立っていた。
「さようならって言葉にするのが苦手なんでね」
マサムネは困ったように笑った。
「なるほど・・・では、餞別とまでは行きませんが、旅の無事を祈るオマジナイをさせていただきます」
そう言うとスノウは、異空間から杖を取り出し、マサムネへと向ける。
マサムネはそのまま気を失い、倒れてしまった。
「さようなら、マサムネさん」