第百二十六話 斧は空を舞い、尻に固定される。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・しぶとい奴め・・・」
「地蔵に言われたくねえよ。もう後ろの手もなくなったんだ。降参しろ」
マサムネとトウ・バレンシアの泥仕合は続いていた。
身体中を千手の拳で殴られ、あちこちが内出血の身体は紫に変色していた。
自動回復能力も発動はしているが、回復速度を超えるほどの打撃ダメージにより、肌色と紫色をいったりきたりしていた。これが街のイルミネーションだったならば、少し奇抜なモード系と話題になったかもしれない。文明の発達していないここユニバースでは、変色しながら闘う変態は不気味でしかなかった。
しかし、マサムネも負けてはいない。見た目は元より、自らが受けるダメージに気を止めず、迫り来る千手の嵐を戦斧で迎え撃つ。闘気と竜闘気を織り交ぜて込めた一撃は、時に弾かれ、時に千手を砕いていった。捨身のランダムアタックが功を奏し、トウ・バレンシアの背中から飛び出していた千手も全て破壊することができた。
あとは、この銀色の斧が地蔵の身体に当たりさえすれば勝つことができるかもしれない。
全裸と地蔵の闘いは終わりへと向かっていた。
(なんだあの男は・・・以前は殴っても起き上がってくることさえできなかったのに・・・不死身だとでもいうのか・・・だが、それもこれまでよ。千手全てを犠牲にして布石は打ってきたのだ。奴は俺のバリアが、闘気か竜気どちらかしか展開していないと思い込んでいるハズだ。だが左手に闘気、右手に竜気と部分的にはバリアを展開できる。
奴がどちらの気を織り込んでいようとも100%受け止めてやるわ。そのまま捕まえて、宇宙空間へと放り投げてやる。いかに不死身といえども、空気のない場所でなら生きてはおれまい・・・)
トウ・バレンシアは両手に別々のバリアを張り、マサムネの攻撃に備える。
マサムネは息を整え、そのまま地面を蹴り、跳躍した。
雲を越え、そのまま大気圏を越え、一度気を失い、
そのまま自由落下して、目を覚ます、マサムネが編み出した捨身の必殺技だ。
「目覚めて良かったぜ・・・アイムール流操斧術・・・奥義!蓮華葬!」
引力を利用したマサムネは炎を帯びて地蔵へと向かって落ちて行く。
かつてユグドラシルの森を吹き飛ばした変態全裸メテオだ。
「読めたぞ!!それは闘気の技だああああ・・・ばあああああ」
左手を天に掲げて地蔵は足裏ジェット噴射を開始する。
爆発的な推進力で地蔵も天へと昇っていく。
その勢いのまま両者が上空でぶつかる。
マサムネの捨身の一撃はトウ・バレンシアの左手によって弾かれる。
斧を握っていた右手は肩から吹き飛び、また大気圏手前まで吹き上げられてしまった。
「まだだ!!タウ・ミノフスキン流操斧術・・・横薙ぎ!!」
上空で左手に持ち替え、そのまま二撃目を繰り出すマサムネ。
しかし案の定、トウ・バレンシアの竜気を帯びた右腕が、マサムネの左手ごと吹き飛ばす。
「ふはははは、もう両手が回復する暇は与えぬぞ!!そのまま宇宙の塵となるがいい!!!」
足裏ジェットがさらに噴出し、闘気と竜気を込めた両腕を合わせてマサムネへと向かっていく。
「まだだ!!斧よ、こおおおおおおおい!!俺と対面座位しろおおおおお!!」
斧は空を飛ぶ――
マサムネの号令により、柄は顔の正面へ、刃は下半身へと近づく。
口で柄を加え、足と尻で斧肩をロック。まさに人と斧の対面座位だ。
目の錯覚か、人斧一体化したマサムネが青白い光に包まれる。
「痴れ者めええええ!魔力のない貴様では、何をしても無駄だああああ!!弾き飛ばしてやるわ!!」
トウ・バレンシアは渾身の力を込めて人斧一体化したマサムネを迎撃する。
闘気と竜気しかないマサムネは、トウ・バレンシアのバリアは貫けない――筈だった。
斧マサムネは、トウ・バレンシアの両拳を粉砕しそのまま地蔵を両断した。