第百二十五話 ミレニアムアームズ
「ほう、申してみよ」
今にも手から炎が出そうになっていた魔法神から殺気が消える。
一先ずヤグルシの話に聞く耳を持ったようだ。
「ありがとうございます。
では初めにクラノスケさんに向けてミレニアムアームズの歴史からお話させていただきやす。
時は5000年前――我が主運命神エスタがうっかりミスで、一本の短剣を作りました。
その名は、『アストラ』
ハイパーゴッドテクノロジーで作られたその短剣は、万物全てを切り裂き、あらゆる武具へと形状を変え、時にビームを放ち、闘いの素人が持っても自動で戦闘をしてくれる。神界最強の武器でした。
当然、他の神々たちからはブーイングの嵐。エスタ様の自宅へは、毎時間イタズラ電話がかかってきていました。アッシの最初の仕事は、その電話を無言で取って無言で切るというものでしたね。
今思えば懐かしいですが、500年以上、イタズラ電話を相手にするのは些か大変でしたよ・・・。
エスタ様はその間にも、何人かの神をアストラで物理的に黙らせたりもしたのですが、途中から飽きてきたのでしょうか。アストラを3つの武器に分解するということにしたのです。
短剣の刀身は、そのままクラウソラスという剣として、
短剣の柄は、長くのばしてガーンデーヴァという弓として、
柄に嵌っていた宝玉は、ヴァナルカンドという杖として、
各武具にアストラの特性を移す作業は多大なる魔力を消費します。
その間に他の神から攻撃されては流石のエスタ様も大変です。
ですので、1000年ごとに作業を区切り、一つずつ、武具を作っていったのです。
それこそがミレニアムアームズと呼ばれる伝説の武具なのです」
「ひとつ、忘れていないか?」
クラノスケがヤグルシに尋ねる。
「ほら、マサムネが使っている斧さ。アレもミレニアムアームズじゃないのか?」
「キシシシ。クラノスケさんがおっしゃる通りでございます。
あの斧『リサナウト』もミレニアムアームズです。しかしながら、あれは、最後に作られた武具でしてね、アストラの残り滓をそのまま斧に注入しただけなのですよ。ですから他の3つの武具に比べて格段に能力が落ちるみたいです。エスタ様は、アレを良く『レプリカ』とおっしゃっていましたよ」
「そ、そんなにも能力が劣るというのか?」
クラノスケは、ヤグルシから語られる真実に固唾を飲む。しかしどこか声は嬉しそうだ。
「はい。特にミレニアムアームズには『神殺し』の能力が強力です。
圧倒的な存在である神を一突きで消滅させる能力があるんでさぁ。
リサナウトにはそこまでの絶大な魔力を込めることができなかったんです。
失敗作といっても過言ではなかったでしょう。だから、世界樹の森に封印したのですよ。
魔族の間では、神々が態々封印した武具として神聖視されていたみたいですけどね。
運命神からしたら、ゴミを大事にしていたワケです」
「・・・・・」
ヤグルシの言葉にクラノスケは考え込んでいるようだ。
数十秒沈黙が続き、やがてクラノスケは、言葉を紡ぐ。
「で、だ。貴様は、この話しをなぜ俺たちにした?」
ヤグルシは、ニヤリと嗤う。
「ここからが本題です。アレクシア様。マサムネさんの呪いを解いて欲しいのです。
クラノスケさんの能力とクラウソラスの真の力があれば、マサムネさんにはなす術もないでしょう。むしろ、魔法神自らが選定者に呪いをかけたとあっては、ラグナロクの勝敗にミソがつくってものではありませんか?」
「・・・・それはそうじゃが・・・アイツ・・・なんか気持ちわるいし・・・」
魔法神は意外とヤグルシの論法に心が揺らいでいた。
「気持ち悪いってなんですか?!確かにマサムネさんは、服も着ないしサハギンを生で食べたり、常識がないです。でも、そこはフェアにいきましょうよ。このとおりです」
ヤグルシは、地面にうつ伏せ、大の字になる。土下座を超えた土下座『寝土下座』が炸裂した。
「や、やめろ・・・そこまでするでない・・・そこまでお主がいうのなら・・・」
「その前に一つ質問していいか」
魔法神の言葉を遮り、クラノスケがヤグルシに問いかける。
いつの間にか、魔法神の隣でカッコよさげなポーズを決めている。
「・・・・どうされたんですか?」
ヤグルシは、地面に顔を埋めたままクラノスケに応答する。
「神殺しというのは、これでも有効か?」
握った剣が、隣のアレクシアの脇腹を貫いていた。