第百二十話 ゼノンは見た。
騒がしい歓声のお陰で目を覚ませた。
トウ・バレンシアに殴られた傷は回復している。
誰かが魔法で癒してくれたのかもしれない。
目の前には空が見えた。
気を失っている内にすっかり夜になっている。
今日は星がキレイな夜だ。
自分の故郷で見る夜空も、今見ている夜空も変わらない。
なのに、どうして争いは起こるのだろう。
そんなことをふと考えた。
トウ・バレンシアを止めれば戦争は終わる。
そう考えていた。だがチカラが足りなかった。
自分は敗けた。完敗だ。
負けを自覚すると視界がぼやけた。
涙。悔しさ・・・自分の原動力だ。
魔族最強のトウ・バレンシアに敗北した今も自分は悔しがっている。
その事実が少し面白かった。
遠くで何か大きな音が聞こえた。
辺りを見回すと、ビビが闘っている。
ザイ・カロット、トウ・バレンシアと。
気づいたら立ち上がっていた。
身体が勝手に魔闘気を練りはじめる。
どうやらオイラはまだ諦めてないようだ。
勝てる可能性はゼロ。
だが何か起こるかもしれない。
運命とは予測不可能、アイツが教えてくれたことだ。
型破りな全裸の男が――
「津波がきたぞー」
一人の魔族が叫んでいる。
さっきの爆発音が原因かもしれない。
大慌てで魔族たちは戦艦へと避難していく。
オイラが行くところは・・・ビビの隣だ。
兄者に背は向けられない。
「火山が噴火したぞー」
別の魔族が叫んでいる。
今度は火山か・・・。
地脈に何か影響でもあったのかな。
でも近くの山じゃないのか。
津波が起きた辺りみたいだな。
海底火山か。
「なんかこっち来るぞー」
どうして最初に気づかなかったんだろう。
津波も噴火も原因は一つ。
アイツが空から降ってきたんだ。
普通に登場できないものだろうか。
波に乗るよう斧に乗り、火山の爆風追い風に、
一糸まとわぬ見慣れた姿、人間辞めた男が一人、
水鏡マサムネここに参上。