第百十九話 諦めない者、立ち上がる者。
「しまった・・・範囲回復魔法が盗まれるなんて・・・なんとういう男だ・・・」
スノウが放った魔法で人間族は窮地に陥った。
ゼノンは一命を取り留めたが、まだ気を失っている。
四季騎士は全員気絶、抜群三騎士の体力はほぼなく、武器はボロボロだ。
反対にザイ・カロットの体力は全快、トウ・バレンシアもまだ底知れない。
戦況は圧倒的に不利。
そんな中、金髪のエルフは酒を呷る。
酒なんぞどこに隠し持っていたのだろうか。
「なによ、降参なんかするもんですか!!
地蔵と竜人が怖くて酒なんか呑めるかぁあああああ」
「ほう、この状況でもまだ威勢がいいな。娘にしたいくらいだ・・・」
ザイ・カロットは槍を振り回しながら舞を踊る。嬉しそうだ。
「カロットよ・・・俺にやらせろ・・・。
久々の千手モードだ。このエルフにも味合わせてやろう」
トウ・バレンシアも背中の拳をウインウインと動かせながらビビに近づいていく。
その余波で抜群の三騎士を吹き飛ばす。地蔵なので表情は変わらないが、嬉しそうに見える。
「私にできることは回復しかありません、ビビさんをサポートします!」
スノウはビビの後ろに控え、杖を構え宣言する。
このスノウの決意が地獄のはじまりだった。
ビビ対トウ、ザイコンビの闘いは熾烈を極める。
槍の攻撃を躱した所に千手の拳が襲い掛かる、その逆も然り。
ビビがボコボコにされ瀕死状態になるとスノウが範囲回復を行なう。
ビビは回復するが、敵も回復する。スノウはビビが勝てるとは微塵も思っていない。すべては時間稼ぎ。スノウの魔力が尽きるか、ビビの心が折れるまでずっと続くのだ。
「あのエルフすげえ・・・殴られても殴られても立ち上がるぞ」
「あの女は諦めるってことを知らねえのか・・・タフだぜ」
いつしか魔族軍の生き残りは戦艦を降り、ビビ達の闘いを観戦するようになっている。自軍のナンバー1と2を相手に、一歩も引かないエルフにいつしか、賞賛の声が上がっていた。たとえ敵だとしても強者は認める。それが魔族の信条だ。
実際、ビビはただ殴られるだけではなかった。
死線の中で神経を研ぎ澄まし、次第に敵の攻撃を見切るようになってきていたのだ。良くなるビビの動きにさらに湧く魔族たち。
トウに吹き飛ばされた抜群の三騎士も泣きながら状況を見ている。加勢できるならしたい、だが身体が動かない。体力の話ではない。心が行くなと叫んでいる。戦意はとっくに折れていたのだ。今はただ強大な敵に向かっていく一人のエルフに託すしかなかった。
だが、ビビの命の灯は少しずつ減っていた。傷ついた体を魔力で回復させても、流れた血は戻らない。今のビビは意地と信頼で立っている。
倒れるのも時間の問題だ。
その時、沖合で大きな爆発音が聞こえた。
何か隕石のようなモノが海に落ちたのだ。
魔族たちは目を凝らして沖の方を見る。
何も見えない。ただ水しぶきが上がっている。
おそらく、水しぶきはやがて津波になるだろう。
突如、一人の魔族が声を上げ、指をさす。
沖合ではない。ビビたちが戦っている場所だ。
ゼノンが立ち上がっていた。