第百十八話 セオリーを壊す
「ふぬぅ」
ザイ・カロットの槍が、鉄球を穿つ。
ゾファルの全霊を込めた球体は粉々に砕け散った。
「ワシの全力投球でもダメじゃったか・・・強すぎる」
ゾファルを初め、抜群の三人は地面に膝をついている。
疲労困憊だ。ザイ・カロットとの闘いはそれほど消耗する。その上、最初の頃はまだ味方に遠慮していたビビのビームだが、今やフレンドリーファイアの嵐。
思わぬ所からの攻撃に王国最強の三人も頭を抱えていた。
(悪気がないのがタチ悪いのよね・・・)
「諦めちゃダメ・・・諦めちゃ」
ビビは仲間を鼓舞するかのように叫ぶ。
なぜか味方からは思い切り睨まれたような気がするが、闘争本能の表れだと捉える。
「そうよ、闘う意志は捨てちゃダメ!!アイツのことだから空から来てくれるわ!」
しかし、ビビの願い虚しく上空からは地蔵が降りてきた。
「トウ・バレンシア様・・・申し訳ありません、少々手こずっておりまして」
ザイ・カロットは地蔵に跪き、弁明を始めた。肩が少し震えているようだ。
「・・・気にするな。俺も余興を楽しんでいた所だ」
そういって担いでいた魔族を地面に放り投げる。
「あれは・・・ゼノン!!大丈夫?」
ビビは倒れているゼノンへと駆けよる。
身体中を腫らしてゼノンは気を失っていた。
かろうじて生きてはいるようだ・・・。
「誰か・・・回復魔法が使える人はいませんか?」
ビビの叫びに抜群の三人は目を伏せる。
何を隠そう、彼らは王国最強の脳筋部隊なのだ。
四季騎士はザイ・カロットの攻撃とビビの追加攻撃で気を失っている。
「マサムネ・・・マサムネのツバがあれば・・・」
何も知らない人がいれば耳を疑うようなことを金髪のエルフは呟く。
マサムネの体液はユグドラシルの葉を食べ過ぎた影響で、癒しの効果があるのだ。
これまで彼のツバで何人もの怪我人を救ってきた。
しかし彼は今、ここにはいない。
「私がやりましょう!!」
これまで気配を消し、ずっと戦況を見ていた賢者がついに動く。
大賢者スノウ・ライトニングは詠唱を始めた。
「世界に散る数多の精霊よ・・・我・・・スノウ・ライトニングに力を示せ・・・
この場にいる全てに癒しを・・・エリアハイヒールレイン!!」
スノウの大魔法で雲を呼び、癒しの雨を降らせた。
雨を浴び、ビビのそばで気を失っているゼノンの傷がふさがっていく。
「よし、この調子で他のみんなも・・・」
ビビが視線を倒れている四季騎士に向けた時、違和感に気づく。
四季騎士も抜群の三人も回復していない、それどころか癒しの雨が降った形跡すらない。
「まさか・・・貴様」
先ほどまで抜群の三人と対峙していたハズのザイ・カロットが頭上にいた。
「ふふふ・・・秘伝—雨吸い」
なんとカロットが人間族に当たる筈の雨を全て吸い込んでしまったのだ。
恐るべき吸引力。
さらに、ザイ・カロットの傷が完治していく。
これがフレンドリーファイアの逆、エネミーキュアだ。
回復魔法の最中、敵はじっとしているというセオリーをぶち壊し、
さらにその回復魔法を盗んでしまう。
ザイ・カロットの卑劣さに、人間族の士気は落ちる一方だ。