第百十六話 玉砕覚悟の暗黒闘気拳
「なん・・だと・・・」
ゼノンは、目の前の光景が信じられなかった。
光を放ち終えた地蔵の背中から無数の手が生えているのだ。
「すまんなゼノン・・・持久戦が望みだったようだが、俺は体力があまりないのでな。
この形態を持って、短時間で終わらせてもらう」
バレンシアは背中に生えた手を大きく広げたままゼノンとの距離を詰める。
質量は大きくなったハズなのに速さは増している。
まず掴まれたのは、ゼノンの両腕だった。
その後、地蔵の左右から二本の腕が伸び、腰をおさえつけ、さらに下方の腕が両足を掴む。
「う、動けない・・・」
千手地蔵の羽交い締めにより身動きができないゼノン。
そこからはサンドバック状態だった。
バレンシアの背中から繰り出される拳は代わる代わるゼノンの全身を殴りつける。
石なのか金属なのか材質のわからない無機質な拳が紫色の血で染まっていく。
千手観音のように、本当に腕が千本あるかはわからない。
だが、地蔵の背後から出てくる拳は、まるで無限のごとく感じられた。
「え、永遠なる豚野郎」
だがゼノンは諦めてはいなかった。
攻撃を受け止め、ひたすらガマンし、
魔闘気を爆発的に高めて拘束していた腕を引きちぎる。
「うおおおおおおおおおお」
殴られすぎたショックなのか、魔闘気を一気に高めた代償なのか、
ゼノンは白目をむく。そのまま目の前の敵へとぶつかっていく。
(・・・手数がなんだ、千手がなんだ・・・カウンターを喰らってもいい。
自分の最高の拳をぶち当てられるなら、それでいい。
魔族最強と相打ちなら、落ちこぼれには上々じゃないか)
ゼノンは、拳に魔闘気を込め、トウ・バレンシアの腹部を叩く。
魔力と闘気の違いが解らなかった頃に編み出した最初の技。
ネガティブな心に自信を付けてくれた技。
暗黒闘気拳だ。
「ゼノン・・・み、みごとだ。貴様の拳は俺に届いていたぞ・・・」
拳は確かに届いていた。
しかし、拳と腹の間には薄いバリアが張られていた。
「いつから物理のみ無効と錯覚していた?」