第百十五話 落ちこぼれの逆襲
ゼノンは、チカラを溜めている。
全身にまとっている、紫白色のオーラが段々と濃くなっていく。
「そのオーラは、やはり魔闘気。チカラのコントロールを覚えたか」
「ええ、父上が教えてくれました。オイラの中には二つの強い力があると。一つは魔力、もう一つは、闘気だと。違いが理解れば操るのは早かったです」
その瞬間、ゼノンはバレンシアの懐へと飛び込み、腹部にパンチを与える。
咄嗟に左手で受け止めたバレンシアは、蹴りを放って、間合いをとる。
「いま・・・防御しましたね?物理攻撃無効のトウ・バレンシアが・・・やはり魔力を帯びた攻撃は通じるんだ!うおおおおお」
ゼノンは勝ち誇ったかのように雄叫びをあげる。
魔族最強と言われるトウ・バレンシアを落ちこぼれのゼノンが追いつめているのだ。
魔族は、そのほとんどが魔力に秀でた者が多い。闘気を得意とする家は、トウ家かザイ家だろう。
まずは、体内の強い力を自覚することが戦士の第一歩だ。
実際、今のゼノンを見ると元々の潜在能力は光るものがあった。
しかし、内に秘めた大きな魔力と闘気が混ざりあって上手くコントロールができずにいたのだ。
魔闘気と理解しないまま、魔法を行使しようとすると、必ず失敗する。
それを理解して教える者もいなかった。ゼノンはとても運が悪かったのだ。
だが、ずっと逃げていた父と向き合い、ゼノンは力の使い方を覚えた。
醜い家鴨の子は今、白鳥になったのだ。
覚醒したゼノンはバレンシアに向けて拳の連撃を打つ。
魔闘気で強化したゼノンの肉体は、パンチも早く、一撃が重い。
バレンシアは防戦一方だ。
(よし・・・このまま手数で押し切れば・・・勝てる!!)
ゼノンの脳裏に勝利の二文字がよぎる。
連撃のうち何発かは手応えを感じている。拳の速さはゼノンが上——
ならばその内勝てる!体力さえ尽きなければ・・・。
(血反吐を吐いたって殴るのをやめない!!オイラが戦争を終わらせるんだ!!)
「モード千手・・・起動」
その一言で地蔵が光に包まれた。