第百十四話 突撃
「特殊部隊―抜群―アッセンブル!!」
ゾファルの号令で、ネルヴァはザイ・カロットへと突撃する。
ビビもそれに合わせて弓を穿つ。
ビームの幅を細く、長くする。味方に当たらないように気をつけながら威力を上げていく。あまりの早さにネルヴァが斬り合う前に、ビームが敵へと到達する。
しかし、カロットは槍を巧みに操りビームを受け流していく。
そこにゾファルの放つ鉄球が飛んでくる。咄嗟に槍の柄で受け止めるが、その衝撃で一瞬たじろぐ。すかさずネルヴァの曲刀が炸裂する。カロットの肩、腰、太ももと連撃をあびせ、行動するヒマを与えない。
さらに今までどこにいたのかと言わんばかりに、トラム・ザムがカロットの背後からナイフを投擲する。四本のナイフがザイ・カロットの背中に刺さっていく。
対魔族用に新設された特殊部隊【抜群】。クラノスケとシャー・カーンの策謀により、ほとんどその実力が活かされることはなかった。クラノスケが不在時に、そのチカラが存分に発揮されるのは皮肉なことなのかもしれない。
鉄球で状態を崩し、剣とナイフで追撃さらに、弓でトドメを狙う。
大賢者スノウがかつて考案した、可愛げのない圧倒的な戦略が、ついに実現したのだ。
同時刻、その上空では、地蔵がジェット噴射で滞空しながら戦況を見ていた。
「少し押されているか?ゼノン、お前もみているのだろう?」
「気づいておりましたか・・・さすがバレンシア閣下」
ゼノンも身体に黒いオーラを纏い宙に浮いている。ここ何週間かの修行で目紛しい成長を遂げている。
「閣下はよせ・・・オレはお前のことを弟のように思っている。それは変わらぬ。どうだ、景気付けに漂白剤でも飲むか?」
マントを翻し、トウ・バレンシアは白いボトルを取り出しゼノンへと渡した。
「・・・ありがとうございます。私のような落ちこぼれには勿体ないお言葉です。漂白剤は要りません。恐れながら、それは飲み物ではありませんよ。そんなことより、カロット様に加勢して参りましょうか?」
ゼン・ゼノンは拳を鳴らして戦闘モードに入っている。あのオドオドしていたグズ野郎ゼノンはどこへいってしまったのだろうか。ジン・ノヴァを倒し、今の顔は自信に満ち溢れている。
「・・・ふふふ、本気で言っているのか?カロットはまだまだ余力を残しておる。彼奴らに遅れをとるようなことはあるまい。それに・・・先ほどから殺気が漏れておるぞ?」
その瞬間、一陣の風が地蔵の頬をかすめる。
石のような灰色の肌から緑の血がポツポツと地上へと落ちる。
「自分の血を見るのも久しぶりだな。強くなったなゼノン」
「・・・バレンシア様・・・いや、兄者!!こんな戦争、もうやめませんか?」
「それが本音か・・・貴様は昔から変わっておらぬな・・・。チカラをつけてもなお、そのような甘い戯れ言
をホザくか・・・ゼノンよ。戦争を止めたくば・・・力ずくでこい!!」
トウ・バレンシアの身体からも殺気がほとばしる。凄まじい圧力が大気を埋め尽くす。並の戦士なら、すぐ気をうしなってしまうだろう。
分厚い雲が空を覆い、稲妻が空をはしる。
「・・・わかりました・・・オイラにも守りたい人達がいます。全力で止めさせてもらいます!!」
上空にて新たなる闘いが始まろうとしていた。