第百十二話 四季騎士 対 ザイ・カロット
「話し合いは終わったか?」
ザイ・カロットは槍をブンブン回している。
先ほどまで魔法神という圧倒的な存在がいたせいか、その場にいる全員が目の前のブンブン竜人の存在を忘れていた。
「まあ・・・そうね・・・あなたの相手は私たち四季騎士が請け負います!」
桃色髪の春騎士ヴェスナー・ノクターンの掛け声が空にこだまする。
同時に四人の女騎士が剣を掲げた。所謂、決めポーズである。
「ふむ・・・威勢は良いようだな。お主らがワシを引きずりだしたおかげで、兵の損害は甚大だ。覚悟はできているのだろうな?」
「もちろん。絶対に止めてみせる!ウチは夏騎士リエータ!王国の為にアンタを倒す!覚悟しいや!!」
「フフフ、正直に言おう!!リエータちゃん、四人の中では正直お主がタイプだ。本気で言っておる。だから、ワシが勝った暁には娘になってもらえぬか?」
突如、ザイ・カロットは願いを口にした。ザイ家は代々槍の家系だ。攻めの槍術師として、魔族の中で存在感を示して来た。女性関係に対しても攻め一辺倒である。
初対面なぞ関係なく、グイグイと攻める。ザイ・カロットの中では、武も愛も同じなのかもしれない。もちろん、四季騎士はもれなくどんの引きだ。
リエータに至っては衝撃の余り、その場にヘタりこむ。
「戦意喪失というわけね・・・やり方は最低だけれど、効果的だわ。
リエータ、三分あげる・・・立ち上がりなさい。
それまでアタイたちが時間を稼ぐ!!ウインド!!」
オレンジ髪の秋騎士ヘルヴスト・フーガが左手から風の刃を放つ。
秋を司る騎士が得意とするのは風魔法。木枯らしが、ザイ・カロットを襲う。
「やったわ!!」
ヘルヴストは手応えありと感じたが、風の刃はザイ・カロットをすり抜けて後方へと飛んでいった。
「どうして・・・一歩も動いていないのに・・・」
「動いていないワケではない。素早く動いて、素早く戻ったのだ。止まって見える程にな・・・その方がビックリするじゃろ?リエータちゃん?」
ザイ・カロットは武力面と精神面から攻撃を加える。初対面の初老のジジイからの馴れ馴れしい『ちゃん付け』はリエータの精神を削っていく。
「今度は拙者が・・・アイシクルランス!乱れ撃ち!!」
青白髪の冬騎士イヴェール・カノンの両手から無数の氷の槍を射出した。
ザイ・カロットが逃げられないように広範囲攻撃を放つ。
だが、今度は槍を素早く振り回し、氷の槍を全て叩きおとしていく。
敵艦隊の壊滅と魔法神の出現で四人はすっかり忘れていたが、
ザイ・カロットの防御技はビームも貫けない程に鉄壁なのだ。四季騎士の脳裏に敗北の文字がちらつく。
「リエータ!!気をしっかり持つのよ!!このままだとあなたは、奴の娘になってしまうわ。間接キスは日常茶飯事。お風呂にだって堂々と入ってくる気よ!!みんな、仲間がそんな状況になるの許せる?私は許せない、この春騎士の名にかけて、リエータを、そして王国を守る!!!」
ヴェスナー・ノクターンの目はまだ死んではいなかった。
自分たちには背負っているものがある。
それを忘れるな、負けるなと背中が言っていた。
リエータをはじめ下を向いていた他の騎士たちもヴェスナーの姿に勇気づけられ、立ち上がった。
「思えば、まだアイツは攻撃していないやんか・・・アホやな・・・ウチらの根性見せたるわ!!ボルケー」
魔法詠唱の途中でリエータは倒れる。
初老の竜人が四季騎士の背後に移動した瞬間、全員が同時に地に伏せた。
ザイ・カロットの圧倒的な勝利である。